8. 加群 (4)

8-1. ネーター加群アルティン加群

次を昇鎖条件 (ascending chain condition) という。

R 加群  M の任意の部分 R 加群  M_i による、集合の包含を順序とした増大列、

 M_1 \subset M_2 \subset \cdots \subset M_n \subset \cdots

について、ある自然数  n が存在して、

 M_n = M_{n+1}=\cdots

となる。//

上の昇鎖条件を満たす R 加群  M をネーター加群 (Noetherian R-module) という。//

 R 加群  M についての次の三つの条件は同値である (証明略)。

1)  M はネーター加群である。

2) M の部分 R 加群を要素とする任意の空でない集合は、極大要素をもつ。

3)  M の任意の部分 R 加群は有限生成である。//

双対概念として、次を降鎖条件 (descending chain condition) という。

R 加群  M の任意の部分 R 加群  M_i による、集合の包含を順序とした減少列、

 M_1 \supset M_2 \supset \cdots \supset M_n \supset \cdots

について、ある自然数  n が存在して、

 M_n = M_{n+1}=\cdots

となる。//

上の降鎖条件を満たす R 加群  Mアルティン加群 (Artinian R-module) という。//

 R 加群  M についての次の二つの条件は同値である (証明略)。

1)  Mアルティン R 加群である。

2) M の部分 R 加群を要素とする任意の空でない集合は、極小要素をもつ。
//

例えば、整数環  \mathbb{Z} \mathbb{Z} 加群である。単項イデアル整域であることから、任意のイデアルは、有限 (単項) 生成である。任意の部分加群イデアルである。したがって、  \mathbb{Z} 加群は、ネーター加群である。 一方、 \mathbb{Z} 加群は、アルティン加群ではない。反例として、以下のイデアルの真に減少する無限列がある。

 (2) \supset (2^2) \supset \cdots \supset (2^n) \supset \cdots
//

 R 加群の短完全列について (上図参照)、

 M_2 は、ネーター (アルティン) 加群である。

\Leftrightarrow

 M_1, M_3 は、ネーター (アルティン) 加群である。

(証明)

女性の方だけを示す。

 M_2 が、ネーター加群だと仮定する。 M_1 から  M_2 への射は単射であることから、 M_1 がネーター加群であることは、明らかである。次に、 M_2 から  M_3 への全射 f とし、 M_3 の任意の部分群の増大列を

 (P_i)_{i \in I}

とする。  (P_i)_{i \in I} M_2 への引戻し (pull-back) を考えると、一般的に

 P_i \subset P_j

ならば

 f^{-1}(P_i) \subset f^{-1}(P_j)

であり、M_2 はネーター加群であることから、ある  n が存在して、

 f^{-1}(P_n) = f^{-1}(P_{n+1})=\cdots

となる。そうすると、

 f \circ f^{-1}(P_n) = f \circ f^{-1}(P_{n+1})

から

 P_n = P_{n+1}

となり、  M_3 もネーター加群である。

次に  M_1, M_3 がネーター加群であると仮定する。

 M_2 の任意の部分群の増大列を

 N_1 \subset N_2 \subset \cdots \subset N_n \subset \cdots

とする。単射であることから M_1 の像と M_1 を同一視して、

 M_1 \cap N_1 \subset M_1 \cap N_2 \subset \cdots \subset M_1 \cap N_n \subset \cdots

また、  M_3 については、

 f(N_1) \subset f(N_2) \subset \cdots \subset f(N_n) \subset \cdots

をとる。 M_1, M_3 はネーター加群であるから、増大はどこかで止む。両方の増大が止んでいる  n は存在する。そうすると、

 M_1 \cap N_n =M_1 \cap N_{n+1}

かつ

 f(N_n) = f(N_{n+1})

ならば、

 N_n = N_{n+1}

であることを示せばよい。

任意の  x \in N_n について、

 f(x) \in f(N_n)=f(N_{n+1})

なので、

 f(x) = f(y)

となる

 y \in N_{n+1}

がある。 f(x-y)=0 から、

 x-y \in N_n \cap \ker{(f)} \\ = N_n \cap M_1 =N_{n+1} \cap M_1

となり、

 x-y \in N_{n+1}

である。つまり、

 x \in N_{n+1}

となる。ゆえに、

 N _n \subset N _{n+1}

となる。全く同じように、

 N _n \supset N _{n+1}

も示せる。したがって、

 N_n = N_{n+1}

である。以上から  M_1, M_3 がネーター加群であるならば、 M_2 もネーター加群である。//

※ 前にファイブ・レンマ ( \varphi_1, \varphi_3 が同型なら  \varphi_2 も同型である) の証明をしたが、これを使えば後半の  M_1, M_3 をネーター加群とした場合の証明はすぐ出る。上の行と下の行にそれぞれ部分群を取って完全列を作ってやれば良い。ネーター性により  \varphi_1, \varphi_3 が同型になるように部分群が取れるということ。


//

 R 加群  M が有限な長さの組成列を持つためには、 M がネーターかつアルティン加群であることが必要十分である。

(証明)

 M がネーターかつアルティン加群であるとする。そうすると、 M はネーター加群であり、極大条件を満たすので、

 M \supsetneq M_1

となる極大元  M_1 が存在する。さらに

 M_1 \supsetneq M^{\prime}

となる部分  R 加群の集合から、極大要素  M_2 が取れる。これを続ければ、

 M \supsetneq M_1 \supsetneq M_2 \supsetneq  \cdots \supsetneq M_i \supsetneq \cdots

となる降鎖列を作れるが、 Mアルティン加群であるので、降鎖はある  i=n で終わり、 M_n = 0 となって、組成列を得る。

次に  M が有限な長さの組成列をもつとする。そうすると、 M はこれ以上細分できない有限な長さの同型な降鎖列を持つので、降鎖条件と昇鎖条件の両方を満たす。//

R は、左 R 加群とみなすことができる。( a \cdot b = ab と作用を考えればよい)//

 R を左ネーター (アルティン) 環とする。このとき、有限生成左  R 加群 M はネーター (アルティン) 加群である。

(証明)

女性の方について証明する。

 M の生成元を  x_1, \cdots, x_n とすると、 a_i \in R について

 f(a_1, \cdots, a_n) = a_1x_1 + \cdots + a_nx_n

となる 全射準同型  f: R^n \to M を定義できる。完全列

 0 \to \ker{(f)} \to R^n \to M \to 0

を考えると、 R がネーター的ならば R^n もネーター的であり、したがって  M もネーター的である。//

左ネーター (アルティン) 環の剰余環もまた左ネーター (アルティン) 環である。

(証明)

完全列、

 0 \to I \to R \to R/I \to 0

をとると、R はネーター加群なので、 R/IR 加群。したがって  R/I 加群であり、 R/I 環である。 R 加群 R/I 加群は、

 a \cdot \bar{b} = \bar{a} \cdot \bar {b}=\bar{a}\bar{b}

の違いだけで、作用の実質は同じである。 //

ヒルベルトの基底定理である。

可換ネーター環  R 上の有限生成可換代数ネーター環である。

(証明)

 R 上の有限生成可換代数は、多項式環  R[X_1, \cdots X_n] のある剰余環と同型である。 R 上の多項式環ネーター環であれば、その剰余環もまたそうである。さらに、

 R[X_1, \cdots X_n]=(R[X_1, \cdots X_{n-1}])[X_n]

から、結局、可換ネーター環 R 上の一変数多項式環  R[X]ネーター環であることを示せばよい。そのために、 R[X]イデアル I が有限生成であることを示す。

イデアル  I から最低次の多項式  p_1 を一つ取り、イデアル  (p_1) を生成させる。もし、 (p_1) = I ならば有限生成である。 (p_1) \neq I であるならば、 I \backslash (p_1)
から 最低次の多項式  p_2 を取り、イデアル  (p_1, p_2) を生成させる。以下、これを繰り返す手続きを考える。

このとき、順次とられていく多項式  p_i の最高次数の項の係数を  a_i とすれば、 Rネーター環なので、イデアル (a_1, a_2, \cdots ) は有限生成で、どこかで昇鎖が止み、ある有限な自然数  m 個の要素  a_1, \cdots, a_m で生成される。このとき、

 (p_1, \cdots, p_m) = I

であることを以下に証明する。

 (p_1, \cdots, p_m) \subsetneq I

と仮定すると、 p_{m+1}

 I \backslash (p_1, \cdots, p_m)

から取れる。また、 p_{m+1} の最高次の係数は、

 a_{m+1} = \sum_{i=1}^{m} k_i a_i

と、 k_i  \in R を使って表せる。

 p_{m+1} の次数は、その取り方から  p_1, \cdots, p_m の次数に対して等しいか、または大きいので、次の多項式

 g \in (p_1, \cdots, p_m)

が以下のように定義できる。

 g =\sum_{i=1}^{m} k_i p_ix^{\deg{p_{m+1}} - \deg{p_i} }

この多項式 g は、 p_{m+1} と次数が同じで、最高次の係数も等しい。ところが、p_{m+1} の取り方から、

 p_{m+1} - g \in I \backslash (p_1, \cdots, p_m)

である。 p_{m+1} -g p_{m+1} よりも次数が小さく、 p_{m+1} の取り方と矛盾する。したがって

(p_1, \cdots, p_m) = I

であることが言えた。//

8-2. 根基と半単純性

 R R \{0\} 以外の両側イデアルを持たないとき、単純環であるという。

\{0\} でない  R 加群で、自明でない部分 R 加群を持たないとき、単純 R 加群 (simple module) または既約 R 加群 (irreducible module) という。

 R のすべての極大左イデアルの共通分は、もちろんイデアルであるが、これを「Jacobson 根基 (Jacobson Radical)」といい  J(R) と書く。局所環に唯ひとつ存在する極大イデアルは Jacobson 根基である。

 R 加群  M に対して環  R の部分集合

 \mathrm{Ann}_R(M) := \{a \in R| aM = 0\}

は、 Rイデアルであり、 M の「零化イデアル (annihilator)」 と呼ぶ。

 a \in \mathrm{Ann}(M),  b, c \in R

ならば、

 bacx =0, x \in M

から

 bac \in \mathrm{Ann}(M)

なので、 \mathrm{Ann}(M) は、両側イデアルである。//

 a \in R に対して次は同値。

1)  a \in J(R)

2) 任意の単純左  R 加群  M に対して

 a \in \mathrm{Ann} (M)

(証明)

 M が単純であるとき、R のある極大左イデアル L に対して

 M \simeq R/L

が成り立つ。

2) から 1):

 R/L は 単純左 R 加群とみなせるので、

 a \in \mathrm{Ann}(R/L)=L

である。 L は任意に取れるから、

 a \in J(R)

である。

1) から 2):

 a \in J(R) ならば  a \in L である。 M は単純加群なので、 x \neq 0 の要素を使って

 M =Rx

と書ける。

 M \simeq R/L

から、

 ax =0

となる。 x は任意なので、

 a \in \mathrm{Ann}(M)

である。//

※ この結果と   \mathrm{Ann}(M) は、両側イデアルであることから、Jacobson 根基  J(R) は両側イデアルである。

 1 \not \in J(R) なので、 R \neq \{0\} ならば、

 R \neq J(R)

である。したがって、 R が単純環ならば、

 J(R) = \{0\}

である。 J(R) = \{0\} である環を「Jacobson 半単純環」という。一般の環  R について、 R/J(R) は、Jacobson 半単純環 となる。//

 J(R) = \{a \in R|\forall x \in R,  R(1-xa)=R\}

(証明)

 R(1-xa) は、 1-xa の生成するイデアルであり、それが  R と等しいということは、 1-xa は、単元だということを意味する。したがって、

( a \in R a \in J(R) である)

 \Leftrightarrow

( \forall x \in R,  1-xa が単元である)

を証明すればよい。

 a \in J(R) であるとする。背理法のために、 1-xa は、ある

 x_0 \in R

で単元でないと仮定する。前に (積閉集合と素イデアルのところで) 使った Zorn補題によって導かれる命題から、 1-x_0a を含む極大左イデアル  I_{\max}が必ず存在する。

 a \in I_{\max}

なので、

 x_0a \in I_{\max}

である。すると、

 x_0a + (1-x_0 a) = 1 \in I_{\max}

となって、極大左イデアルが真のイデアルであることに矛盾する。したがって 、 1-xa は、任意の  x \in R について単元である。

逆も、背理法を使うために、 a \not \in J(R) と仮定する。そうすると

 a \not \in I_{\max}

となる ある極大左イデアル  I_{\max} が存在する。そうすると、 I_{\max} の極大性から、

 Ra + I_{\max} = R

である。そうすると、特に、

 x \in R, m \in I_{\max}, xa + m = 1

となるものがあり、

 m = 1-xa

であるが、右辺は条件から単元であり、左辺は極大イデアルの要素であるから、明らかに矛盾する。したがって、 a \in J(R) である。//

「中山の補題 (Nakayama's lemma or Krull-Azumaya theorem)」を証明する。

 I I \subset J(R) を満たす、環  Rイデアルとする。有限生成左R 加群とその部分加群  N について、

 M = N + IM ならば  M = N

特に

 M = IM ならば  M = \{0\}

である。

(証明)

まず、最初に

 M = N + IM

は、  \bmod{N}

 M/N = I(M/N)

であることがわかる。そうすると、

 M/N = \{0\}

であることが示せれば、

 M = N

が示せる。

したがって、 M = IM ならば、 M = \{0\} を示せばよい。

ノート A の固有値の記事で、ケーリー・ハミルトンの定理を証明したので、それに思いを馳せつつ行う。

 M は有限生成なので、その生成系を  x_1, \cdots, x_n とする。 M = IM であるので、 a_{ij} \in I として、

 x_i = a_{i1}x_1 + \cdots + a_{in}x_n

と書ける。右辺を左辺に移項して、

 - a_{i1} x_1 - \cdots + (1 -a_{ii}) x_i - \cdots - a_{in} x_n = 0

となる。行列でかくと、

 T = \begin{pmatrix} 1-a_{11} & -a_{12} & \ldots &-a_{1n}\\-a_{21} & 1-a_{22} & \ldots& -a_{2n}\\\vdots & \vdots & \ddots&\vdots\\-a_{n1} & -a_{n2} & \ldots & 1 -a_{nn}
\end{pmatrix}

とおいて、

 T\mathrm{x} =0

となる。余因子行列を  \tilde {T} として、

 \tilde{T}T=\det{(T)}E_n

を使うと

 \det{(T)} \mathrm{x} = 0

を得る。行列式の多重線形性により、

 \det{(T)} = 1 + \iota

の形となるが、前の結果から、 1 + \iota は、 R の単元である。したがって、

 x_i = 0

と結論できる。 x_i M の生成系に属する要素なので、

 M = 0

である。//

以下の定義は、注意する。「冪零元イデアル (nil ideal) 」と「冪零イデアル (nilpotent ideal)」は一般には異なる。左イデアル  I が冪零イデアルであるとは、ある  n に対して

 I^n = \{0\}

ということである。 I^n

 x_1x_2\cdots x_n \quad (x_i \in I)

の形の要素をもつイデアルだから、個々の要素が「冪零元 (nilpotent element) 」とは意味が異なる。もちろん冪零イデアルの要素は、冪零元である。冪零元イデアルの方は、すべてが冪零元によるイデアルであって、異なる要素の積が零になることは必ずしも要求されていない。

それで、最初の命題は冪零元イデアルに関するものである。

 Rイデアル  I のすべての元が冪零元ならば (つまり、 I が、冪零元イデアルならば)、

 I \subset J(R)

である。

(証明)

 x \in R が冪零ならば

 x^n = 0

を満たす最小の自然数  n が存在する。

 1 - x^n = 1

から、

 (1-x)(1+x^2+\cdots + x^{n-1}) =1

であり、 1-x は単元である。そうすると、前の命題を使って

x \in J(R)

を示せることは明らかである。//

次は、それが冪零イデアルになる条件に関する命題である。

アルティン環  R のJacobson 根基  J(R) は、冪零イデアルである。

(証明)

中山の補題を使うために、有限生成を導くことがポイントである。

 J(R) \supset J(R)^2 \supset \cdots

だが、 Rアルティン環であることから、ある自然数  n > 0 が存在して、

 J(R)^n = J(R)^{n+1} = \cdots

となる。

ここで、

 J(R)^n = \{0\}

であれば、冪零イデアルだから、

 J(R)^n \neq \{0\}

と仮定する。

 R の左イデアル  L に対して、

 J(R)^nL \neq \{0\}

を満たす左イデアル  L 全体の集合を考え、再び  Rアルティン環である条件を考えると、この集合には極小元が存在し、その左イデアルを再び  L とおく。

 J(R)^nL \neq \{0\}

から、 a \in L で、

 J(R)^na \neq  \{0\}

となるものがある。

 Ra \subset L

だが、 L

 J(R)^nL \neq \{0\}

を満たす部分集合全体の極小元であったから、

 L=Ra

である (つまり、 L は有限生成であることが言えた)。

 J(R)^n(J(R)L) = J(R)^nL \neq \{0\}

であるが、

 J(R)L \subset L

と、 L が極小元であることから、

 J(R)L = L

である。

 L は有限生成だったので、中山の補題から、

 L = \{0\}

となる。これは、明らかに L の取り方と矛盾する。したがって、

 J(R)^n = \{0\}

であり、 J(R) は冪零イデアルである。//

以上から、左アルティン環では Jacobson 根基は、環に含まれる最大の冪零イデアルである。//

 R 加群  M について、 M の任意の部分加群が直和因子であるとき、 M を「半単純 (semisimple)」あるいは「完全可約 (completely reducible)」 という。//

半単純加群の部分加群、剰余加群はまた半単純である。

(証明)

 K \subset L \subset M

とする。 半単純加群の定義より、

 M = L \oplus L^{\prime} = K \oplus K^{\prime}

と書ける。

 J = K^{\prime} \cap L

として、

 L = K \oplus J

であること、つまり、

 L = K + J,  K \cap J = \{0\}

を証明する。

任意の

 l \in L \subset M

は、

 l = k + k^{\prime} \quad (k \in K, k^{\prime} \in K^{\prime})

と一意的に書ける。 k \in L で、

 k^{\prime} = l  - k \in L

である。つまり、

 k^{\prime} \in J

である。

今度は、

 l \in K \cap J

とすれば、

 l \in J = K^{\prime} \cap L

なので、

 l \in K^{\prime}

であるが、 l \in K でもあるので、

 l = 0

である。

剰余加群の方は、

 M = N \oplus N^{\prime}

と書けるが、

 N^{\prime} \simeq M/N

である。//

加群が半単純であるためには、単純加群の直和となることが必要十分である。

(証明)

省略。Zorn補題を使って証明される。//

※ 「半単純」という言葉は、実は線型空間において、すでに出てきている。

線型空間  V において  V の部分空間  W が、線型写像  f: V \to V

 f(W) \subset W

を満たすとき、 W f の不変部分空間と呼んだ。 V が、f の不変部分空間  W_1, \cdots, W_r の直和になっているときは、それぞれの  W_i から基底をとれば、 f の表現行列は、

 \begin{pmatrix} 
A_1 & O & \ldots & O\\
O & A_2&  \ldots & O\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\
O&O&\ldots&A_r\end{pmatrix}

となる。それぞれの  A_i は、写像  f W_i に制限したときの表現行列になっている。 Ai は、直和行列と呼ばれ、

 A_1 \oplus A_2 \oplus \cdots \oplus A_r

で表す。

不変空間の例としては、もちろん  f の像や核がそうだが、 f固有値によって作られる固有空間がまさにそうである。 f によって表現行列が対角化可能なとき、線型空間  V は固有空間の直和で表せた。そのとき、 f を「半単純」と呼んでいた。

※ 「半単純」と同意で使われる「完全可約」というのは、群の表現に対応する言葉であろう。 G 加群 V が「G 不変」とは、 G 部分加群 W が、

 GW \subset W

になることである。 G 加群が真の  G 不変部分空間を持たないとき、「既約表現」と呼び、持つときは「可約表現」という。「完全可約」とは、表現が「既約表現」の直和に分解できることを言う。//

Schur の補題が出てきたが、これは群の表現で必ず出てくるものである。

 G線形空間  V への作用として、普通よく定義されるのは、準同型写像

 \rho: G \to \mathrm{GL}(V)

が与えられたとき、それを「表現」ということである。より直感的な言い方をすれば、「表現」とは、群 G の要素  gに、 \rho(g) として、 \mathrm{GL}(V)正則行列を対応させる準同型  \rho に他ならない。このとき、線形空間  V は「表現空間」とよばれ、「表現空間」の次元は「表現の次数」と呼ばれる。

 G の二つの表現

 (\rho, V), (\tau, W)

は、任意の  G の要素  g に対して、

 \tau(g)\circ T = T \circ \rho(g)

のように可換となる線形写像  T: V \to W が存在するとき、「同値」であるという。

それで、Schur の補題は以下のような形で出てくる。証明自体は、あたり前のようにも思える次の命題である。

 G の有限次数既約表現を

 \rho: G \to \mathrm{GL}(V),
 \tau: G \to \mathrm{GL}(W)

とする。また、 T: V \to W線型写像とする。

1) もし、 \rho,  \tau T により同値ならば、  T は零写像であるか同型写像である。

2) V, W代数閉体上の線型空間で、

 \rho = \tau, V = W

ならば、 Tスカラー倍である。

(証明)

1) 任意の

 \rho_g(w), w \in \ker{T}

について、表現の同値の条件

 T(\rho_g(w)) = \tau_g(T(w)) =0

から

 \rho_g(w) \in  \ker{T}

である。つまり

 \rho_g(\ker{T}) \subset  \ker{T}

であり、 \ker{T} \rho の不変部分空間である。 \rho は、既約表現であることから、

 \ker{T} = \{0\}

または

 \ker{T} = V

の二つの場合しかない。そうすると、後者の場合は、

 T=0

である。前者の場合は、単射を与えるが、 \tau も既約表現であるので、

 \mathrm{Im}(T) = W

である。したがって同型射である。

2) 代数閉体で考えているので、固有多項式は分離的である。 \lambda固有値として、その固有空間を  H とすると、

 \rho_g( T(w) )\\ 
= \rho_g(\lambda w) )\\
= \lambda \rho_g(w)\\
= T(\rho_g(w) )

つまり H は不変部分空間で  \rho は既約だから、

 H = V

である。//

組成列 (長さは有限とする) をもつ左 R 加群 M, N が共通の組成因子をもたなければ

 \mathrm{Hom}_R(M, N) = \{0\}

である。

(証明)

準同型  f が 零写像でないと仮定すると、準同型定理から

 f(M) \simeq M/\ker{f}

である。そうすると、

M/\ker{f} が単純加群であれば、 M, N の組成因子が同型のものを持ってしまうので、M/\ker{f} は、単純加群ではない。そうすると  M\ker{f} の間に部分群  M^{\prime} が存在する。準同型定理により、

 f(M^{\prime}) \simeq M^{\prime}/\ker{f}

である。この手続きは、無限回繰り返すことができるが、組成列の長さは有限なので、いつかは剰余加群は単純になってしまう (有限長の長さの組成列をもつ加群はネーターかつアルティン的であるということ)。そうすると、共通の組成因子を持たないという仮定に矛盾する。したがって、準同型  f は零写像である。//

M が単純加群ならば、

 \mathrm{End}_R M := \mathrm{Hom}_R(M, M)

は、可除環である。

(証明)

 \mathrm{End}_R M は、写像の加法と乗法が定義され、恒等写像を乗法の単位元、零写像を加法の単位元として、環になることの証明は省略する。

 0 \neq f \in \mathrm{End}_R M

とすると、 M は単純であることから、 f は同型である。そうすると  f は逆射をもつので、単元である。したがって  \mathrm{End}_R M は可除環(斜体)である。//

8-3. Artin-Wedderburn の構造定理

半単純アルティン環についての構造定理である、「Artin-Wedderburn の定理」である。

次は同値である。

(1) 左  R 加群 R は半単純加群である。

(2) すべての左 R 加群は半単純である。

(3) すべての左  R 加群は射影加群である。

(4)  R は半単純左アルティン環である。

(5)  R は左アルティン環で、有限個の単純環の直積である。

(6) 可除環  D_1, D_2, \cdots, D_r に対して、

 R \simeq M_{n_1}(D_1) \times M_{n_2}(D_2) \times \cdots \times M_{n_r}(D_r)

である。ここで、 M_n(D) D上の n 次全行列環である。

(証明)

 (2) \Rightarrow (1) は明らかである。

 (3) \Rightarrow (2) は、 M の部分加群 N とすると、条件から M/N は射影加群である。すると、標準的全射

 \pi: M \to M/N

に対し、lifting として単射となる「切断」

 \iota: M/N \to M

が存在するので、M

 N \oplus \mathrm{Im}( \iota)

に分裂する。したがって N は直和因子となる。

 (1) \Rightarrow (3) は、条件より、自由加群  F は基底の直和となるので、半単純となる。任意の左 R 加群  M をとると、ある自由加群  F からの全射準同型  \pi: F \to M が構成できる。すると  F は半単純でもあるので任意の部分群が直和となり

 F =\ker{(\pi)} \oplus M

となり、 M は自由加群の直和因子となるので、射影加群である。

 (5) \Rightarrow (4)。単純環は

J(R) = \{0\}

つまり (Jacobson) 半単純環であることは、すでに示してある。

 J(R_1 \times \cdots \times R_r)=\{(0, \cdots,0)\}

は明らかである。

 (6) \Rightarrow (5)。可除環  D 上の全行列環  M_n(D) が自明な「両側」イデアルしか持たない単純環であることの証明は省略する (行と列の基本変形を思い出して、0 行列のみでない任意の両側イデアルが、必ず単位行列を含むことさえ示せばよい。なお念のためだが、全行列環は、両側イデアルが自明なものしか持たなくても左イデアルは自明でないものを持つ。例えば、第  i 列目を除くすべての行列成分が零になるような行列の集合は全行列環の左イデアルとなる)。 M_n(D) は有限生成であることは、ここでは認めておくことにし、有限生成であることと、左イデアルが組成列をもつこと、Rアルティンかつネーター的であることは、すべて同値であった。これは有限個の直積についても同じである。

 (4) \Rightarrow(1)
 R が半単純環であることから、Jacobson 根基は

 J(R)=\{0\}

である。つまり、極大左イデアル全体の集合を  \mathcal{ I} とすれば、

 \bigcap_{I \in \mathcal{I}}I =\{0\}

ということだが、これが有限個の極大イデアル  I_1, \cdots, I_n によって、

 \bigcap_{i=1}^n I_i =\{0\}

となることは、 R が左アルティン環である条件から示すことができる。実際、任意の極大イデアルに含まれる要素  x \neq 0 について  x を含まないある極大イデアルが存在する。このことは、

 \bigcap_{i=1}^k I_i  \neq \{0\}

のとき、ある  I_{k+1} によって

 \bigcap_{i=1}^k I_i  \supsetneq \bigcap_{i=1}^{k+1} I_i

とできることを意味する。この減少列は、アルティン環の降鎖条件から有限回  n でやみ、最後は、

 \bigcap_{i=1}^n I_i =\{0\}

であることは明らかである。

これが言えると  I_1, \cdots, I_n が極大イデアルであることから、どの二つをとっても互いに素であることは明らかである ( I_i + I_j = R でないと極大性に反する)。このとき、中国の剰余定理から、

 R/\bigcap_{i=1}^n I_i = R \simeq \bigoplus _{i=1}^n R/I_i

となる。ここで、 R を左 R 加群と見なせば、 R/I_i は単純加群であり、 R は単純加群の直和となるので半単純加群である。

残りの証明の前に、まず環  R の「反対環 (opposite ring)」 R^{op} を定義する。これは、元の環  R の積の定義を

 a \cdot b = ab

から

 a \cdot b = ba

へと変更した環のことである。環を加法のアーベル群、あるいは集合と見たときには、もちろん

 R = R^{op}

である。また R可換環であれば積の結果は同じなので、環としても同じである。

このとき、

 R ^{op} \simeq \mathrm{End}_R (R)

であることを証明する。

(上記補題の証明)

 \rho: R^{op} \to  \mathrm{End}_R (R)

 \rho(x) = \varphi_x

として定め、

 \varphi_x(1) = x

とする。このとき、

 \varphi_{x+y}(a)\\
=a\varphi_{x+y}(1)\\
=a(x+y)\\
=ax + ay\\
=\varphi_x(a)+\varphi_y(a)

だから、

 \rho(x+y)\\
=\varphi_{x+y} \\
= \varphi_x + \varphi_y \\
= \rho(x)+\rho(y)

が成り立つ。また、

 \varphi_{yx}(a)\\
=a\varphi_{yx}(1)\\
=ayx\\
=ay\varphi_x(1)\\
= \varphi_x(ay)\\
= \varphi_x(\varphi_y(a) )

だから、

 \rho(x \cdot y)\\
= \rho(yx)\\
= \varphi_{yx}\\
= \varphi_x \circ \varphi_y\\
= \rho(x)\circ \rho(y)

となるので、 \rho は環準同型写像である。次に  \rho単射であることは、

 \rho(x) = \rho(y) であれば、
 \varphi_x = \varphi_y である

ので

 x=y

である。また、全射であることは、任意の

 f \in  \mathrm{End}_R (R)

に対して  f(1) = r とすると、

 f(x) = xf(1)= xr

なので、 \rho(r) = f となる  r は存在する。以上より、 \rho は同型射であることがいえた。//

可除環  D 上の全行列環  M_n(D) に対して、

 M_n(D)^{op} \simeq M_n(D^{op})

が成立する。左辺の項は行列の積を入れ替えることを意味する。これについては、証明しないが転置行列に関する、

 (AB)^t = B^tA^t

という関係を思い出せば十分である。転置行列を取る操作は逆転置行列を逆操作と考えれば、もちろん可逆であり同型を与える。//

 (1) \Rightarrow (6)

 R \simeq M_{n_1}(D_1) \times M_{n_2}(D_2) \times \cdots \times M_{n_r}(D_r)

を証明するために、

 \mathrm{End}_R(R) \\ \simeq M_{n_1}(D_1 ) \times M_{n_2}(D_2) \times \cdots \times M_{n_r}(D_r)

を証明する。

条件から、左  R 加群  R は半単純であるので、単純左 R 加群の直和となる。それをイデアルとしていえば、極大イデアルの双対概念である「極小左イデアル」( (0) と自分自身を除いて間に他のイデアルが存在しない) の直和になるということである。今、極小イデアル I_i とおいて、

 R = \bigoplus_{i \in \Omega}I_i

となるが、左  R 加群  R は有限生成なので (実際  1 で生成できる)、有限個の直和で書くことが出来る。

※ 注:

 1 = \sum_{i \in \Omega} e_i \quad (e_i \in I_i)

と表わせるが、以前、有限でない直積と直和の違いを説明した記事で述べたように、直和の場合は 「有限個を除くすべての添字に対して零」である。すなわち、 e_i \neq 0 は有限個ということである。//

そこで、左加群として同型なもの同士をすべてまとめて、

 R \simeq J_1^{n_1}\oplus \cdots \oplus J_r^{n_r}

と表せる。ここで、 J_i^{n_i} は、同型なイデアル n_i 個の直和を表す。

以上の構成により、 i \neq k ならば、 J_i, J_k は同型とはならない。つまり、 J_i, J_k は、共通の組成因子を持たないので、Schur の補題から、

 \mathrm{Hom}_R(J_i, J_k) = \{0\}

である。すると

 f \in \mathrm{End}_R(\bigoplus_{i=1}^{r} J_i)

について、

 f(J_i) \subset J_i

となって、以下の同型を与える。

 \mathrm{End}_R (R) \simeq  \mathrm{End}_R (J_1) \times \cdots \times \mathrm{End}_R (J_r)

次に

 \mathrm{End}_R (J_i) \simeq M_{n_i}(D_i)

を示す。

再び Schur の補題により、極小イデアル  I に対して  \mathrm{End}_R (I ) は可除環 である。 J_i を一つとって簡単のために以下のように書く。 I_i は先程の構成から皆同型な単純加群 (極小イデアル) である。

 J = I_1 \oplus \cdots \oplus I_n

可除環 D を作るために、どれかひとつ単純加群  I_i を固定し、それを  I として、同型射

 e_i: I_i \to I

を定義しておく。また、自然な射影

 p_i: J \to I_i

を定義する。

そうして、

 f \in \mathrm{End}_R( J)

について、以下のように行列成分を与える。

 a_{ij}(f) := e_i \circ f_{ij} \circ e_j^{-1} \in D

ここで、

 f_{ij}: I_j \to I_i; \, f_{ij} := p_i \circ (f|_{I_j})

そうすると、 a: \mathrm{End}_R( J) \to M_n(D)

 a(f) = (a_{ij} (f) )

と定めれば、これが同型を与えることは容易に確認できる (Artin-Wedderburn の構造定理の証明終わり)。//

アルティン環  R は、左ネーター環である。

(証明)

 R の左イデアルが組成列をもつことを示す。

 R/J(R) は Jacobson 半単純左アルティン環だから、有限生成であり、組成列を持つ。また、左アルティン環 J(R) は冪零イデアルだったから、

 J(R)^n = \{0\}

となる  n が存在する。

 J(R)(J(R)^i/ J(R)^{i+1})\\
=J(R)^{i+1}/J(R)^{i+1}\\
= \{0\}

だから、 J(R)^i/ J(R)^{i+1} は、半単純左アルティン環上の加群とみなせる。すなわち、半単純加群である。また、 Rアルティン加群なので、その任意の部分加群と任意の剰余群はアルティン的であり、 J(R)^i/ J(R)^{i+1} は、アルティン加群である。以上アルティンかつ半単純から、 J(R)^i/ J(R)^{i+1} は、有限直和に分解して、組成列を持つ。

以上、 R/J(R) J(R) が組成列を持つことを示したので、ジョルダン・ヘルダーの定理から、 R は組成列を持つ。したがって R は、左ネーター環でもある。//

群環について。

有限群  G可換環 R に対して、 R[G] を次の形式和を要素とする集合として定義する。

 \lambda_g \in R として、

 \sum_{g \in G} \lambda_gg

演算として、次の加法と乗法を定義する。

 \sum_{g \in G} \lambda_gg + \sum_{g \in G} \mu_gg = \sum_{g \in G} (\lambda_g + \mu_g)g

 \sum_{g \in G} \lambda_gg \times \sum_{h \in G} \mu_hh \\
= \sum_{g,h \in G} (\lambda_g \mu_h)(gh)\\
=\sum_{g \in G}(\sum_{h \in G} \lambda_h \mu_{h^{-1}g})g

このとき、 R[G] を「群環」と呼ぶ。 R[G] R 上の代数であるとともに、 G の元を基底とする (群の積に対応する積が定義されている) 自由 R 加群 (線型空間) ともみなせる。 G の要素が基底だから、位数が  n であれば自由 R 加群と見たときの階数 (次元) は n である。群環はG が有限群なので、明らかに自明でない零因子を持つ。群の要素  g の位数を  m とすれば、

 (1 -g)(1+g + \cdots + g^{m-1}) = 0

である。

次に、 R[G] 上の加群 V を考える。群の表現 (準同型)  \rho: G \to GL(V) が与えられたとき、

 v \in V,  x = \sum_{g \in G} \lambda_gg \in R[G]

に対して、

 xv = \sum_{g \in G} \lambda_g\rho_g(v)

と定義すれば、 R[G] 加群は、群  G の表現が与えられた線型空間と同じことである。

また、二つの  R[G] 加群  V, W写像  V \to W について、R[G] 準同型  \varphi を、通常のR 準同型であって、かつ、すべての  g \in G, v \in V について、

 \varphi(\rho_g(v)) = \rho_g (\varphi(v))

を満たすものと定義する。

次は 「Maschke の定理」と呼ばれる。

G を有限群とし、 K をその標数  \mathrm{char}(K) G の位数と互いに素な体とする。このとき、群環  K[G] は半単純アルティン環である。

(証明)

Artin-Wedderburn の定理から、任意の左 K[G] 加群 V が半単純であることを示せば、群環は半単純アルティン環である。そのためには、半単純加群の定義から、 V の任意の部分加群  W V/W との直和になる。すなわち

 V = W \oplus V/W

であることを示せばよい。

まず、 K 準同型として、標準射影 (全射である)  p: V \to V/W を考えれば、左  K[G] 加群 は自由加群(K 上の線型空間) であるから射影的であり、

 p \circ \varphi = id_{V/W}

を満たす切断  \varphi: V/W \to V は存在し、 V は、直和に分裂するのは明らかである。したがって  \varphi をベースに、すべての  g \in G と可換な  K[G] 準同型  \Psi: V/W \to V を構成することを考える。そのために、 x \in V/W に対して、

 \Psi(x) = \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_g \circ \varphi \circ \rho_{g^{-1}}(x)

を定義する (標数に関する条件から  |G| \neq 0 である)。

 x = \rho_h(y) と置いて見ると、

 \Psi(\rho_h(y)) \\
= \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_g \circ \varphi \circ \rho_{g^{-1}}(\rho_h(y))\\
= \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_g \circ \varphi \circ \rho_{g^{-1}h}(y)
 = \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_g \circ \varphi \circ \rho_{(h^{-1}g)^{-1}}(y)
 = \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_h \circ \rho_{h^{-1}}\circ \rho_g \circ \varphi \circ \rho_{(h^{-1}g)^{-1}}(y)
 = \frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_h \circ  \rho_{h^{-1}g} \circ \varphi \circ \rho_{(h^{-1}g)^{-1}}(y)
 = \rho_h(\frac{1}{|G|}\sum_{g \in G}\rho_{h^{-1}g} \circ \varphi \circ \rho_{(h^{-1}g)^{-1}}(y) )
 = \rho_h(\Psi(y))

となって可換である。

また、

 p(\rho_g \circ \varphi \circ \rho_{g^{-1}}) \\
= p(\rho_g)p( \varphi)p(\rho_{g^{-1}})\\
=p(\rho_g)p(\rho_{g^{-1}})
= p

 x \in V/W から

 p(x) =x

であり、

 p \circ \Psi = id

は明らかである。したがって、 V は、 K[G] 加群として分裂し、

 V = W \oplus \mathrm{Im}(\Psi)

と直和分解する。//

 G を有限群、 K代数閉体とすると、前の Maschke の定理から、群環  K[G] は半単純アルティン環である。このとき、次がいえる。

 K[G] \simeq M_{n_1}(K) \times M_{n_2}(K) \times \cdots \times M_{n_r}(K)

となり、単純左  K[G] 加群の同型類は  r 個で、その  K 上の次元  n_i について、

 \sum_{i=1}^r n_i^2 = |G|

が成立する。

(証明)

 K[G] は、半単純アルティン環であるので、Artin-Wedderburn の定理から、可除環  D_1, \cdots, D_r に対して

 K[G] \simeq M_{n_1}(D_1) \times M_{n_2}(D_2) \times \cdots \times M_{n_r}(D_r)

となる。それで、最初の命題に対して示さないといけないのは、

 D_i = K

ということだけだが、これはほとんど明らかである。なぜなら、各  D_i は、 K を基礎体とする拡大体であるとみなせるが、 D_i はある極小イデアル  I の自己準同型写像の集合  \mathrm{End}_K(I) と同型であり、 I 自体が (線型部分空間とみた場合) 有限次なのだから、もちろん有限次拡大体である (つまり体次数は有限である)。 K代数的閉体であるので、任意の最小多項式 K において一次式に分解し根をもっている (分離的である)。基礎体がそうであれば、何を基礎体に添加しても、もうこれ以上体を拡大できないのだから、

 D_i = K

である。

後半の

 \sum_{i=1}^r n_i^2 = |G|

という関係を示す。まず、  K[G] の中心

 Z(K[G]) = \{x \in K[G] | \forall y \in K[G], xy = yx\}

を考え、この中心 (部分空間である) の次元が、 G の共軛類の個数に等しいことを証明する。

 \sum_{g \in G} \lambda_gg \in Z(K[G])

とすると、任意の  h \in G に対して、中心の定義から、

 h(\sum_{g \in G} \lambda_gg )h^{-1} = \sum_{g \in G} \lambda_gg

左の項は、結局、次と同じである。

 h(\sum_{g \in G} \lambda_gg )h^{-1} = \sum_{g \in G} \lambda_{hgh^{-1}}g

したがって、

 \lambda_g = \lambda_{hgh^{-1}}

を得る。

これが何を意味しているかというと、群 G の同じ共軛類に属する場合に、 \lambda は等しく、 \lambda は、共軛類の数しか違わないということである。したがって、群の中心は、 G の共軛類から生成される。ところが、異なる共軛類同士は共通の要素を持たないから、結局、 Z(K[G]) は、 G の共軛類の元を基底にもつ。つまり、中心、 Z(K[G]) の次元は  G の共軛類の数に等しい。

次に、

 K[G] \simeq M_{n_1}(K) \times M_{n_2}(K) \times \cdots \times M_{n_r}(K)

Schur の補題から、代数閉体の場合は、各行列環の中心は  K すなわち、 K 上の一次元空間のことである (実際、単位行列スカラー倍したものが中心の定義を満たすことはすぐに確認できる)。そうすると、

 \dim{ Z(K[G]) } = r

であることがわかる。各行列環の次元は、  n_i^2 で与えられ、 G の位数は、 K[G] の次元を与えるのは明らかである。//

 D を可除環とするとき、単純アルティン加群  R=M_n(D) 上の単純左加群 S は、自然な加群  D^n に同型である。

※ もう一回定義を確認しておくと、環  R が単純であるということは、 R の両側イデアル \{0\} R 自身の二つのみであるときをいう。R が可換であれば、「体」と同じ概念である。環はそれ自身、加群ともみなせる。「単純アルティン加群」は Artin-Wedderburn の定理によれば、「単純かつ半単純 (左) 加群」ということと同値である。

(証明)

わざわざ書いてみると、R の作用をR を左加群とみて、加群の準同型

 \varphi: R \to S; r \mapsto rs

として考えれば、準同型定理より、

 R/\ker{(\varphi)} \simeq \mathrm{Im}(\varphi)

である。ここで  S は単純左加群なので、左作用として自明な部分群しか持たないので、

 \mathrm{Im}(\varphi) = S

であり、R の左極大イデアルL として、

 \ker{(\varphi)} = L

である。そうすると、 R は半単純 (左) 加群なので、

 R = L \oplus I

と書けるが、 IR の極小左イデアルである。そして極小左イデアル  I S と同型であることがわかる。

 D は可除環 (斜体) なので  0 を除いて単元で、自明な両側イデアルしか持たない。このことから  D^n は単純である。

R (行列である) を具体的に直和に書くと

 R = P_1 \oplus P_2 \oplus  \cdots \oplus P_n

ここで、 P_i は、行列の  i 列目を除くと、すべて零の行列である。各  P_i は極小イデアルで、明らかに互いに同型であり、 D^n とも同型である。アルティンなので組成列を持ち、他の表現もジョルダン・ヘルダーの定理から組成因子は同型である。//

※ Artin-Wedderburn の定理から、

 R \simeq M_{n_1}(D_1) \times M_{n_2}(D_2) \times \cdots \times M_{n_r}(D_r)

であるが、単純なので、両側イデアルは自明なものしかなく、結局

 r = 1

である ( r > 1 だと矛盾する)。したがって極小イデアルは皆、同型である。