ノリの悪い日記

古今東西の映画、ポピュラー音楽、その他をいまここに交錯させながら随想します。

6. 加群 (2)


6-1. 完全系列

いくつかの 群  G_i (i \in \mathbb{Z}) の準同型写像の列、

\cdots\,\overset{f_{i-2}}{ \longrightarrow}G_{i-1}\overset{f_{i-1}}{\longrightarrow}G_i \overset{f_{i}}{\longrightarrow}G_{i+1} \overset{f_{i+1}}{\longrightarrow}\,\cdots

が、どの  i \in \mathbb{Z} についても、

 \mathrm{Im}\, f_{i-1}  = \ker{f_{i}}

を満たすとき、つまり、

 f_i \circ f_{i-1}=0

であるとき、その準同型列を「完全系列 (exact sequence) 」という。特に  \{e\} を単に  e と略記して、次のように書いて完全系列であるとき、

e \overset{f_{0}}{ \longrightarrow}G_1\overset{f_{1}}{\longrightarrow}G_2 \overset{f_{2}}{\longrightarrow}G_3 \overset{f_{3}}{\longrightarrow}\,e

これを「短完全列 (short exact sequence)」という。また、このとき、 G_2 は、 G_1 による  G_3 の拡大であるという。

上図の「短完全列」において、

 \mathrm{Im} \, f_0 = \{e_{G_1}\} = \ker{f_1}

だから、 f_1 は単射である。また、

 \ker{f_3} = G_3 = \mathrm{Im} \, f_2

だから、 f_2 は全射である。

 \mathrm{Im} \, f_1  f_1 が単射であることを考えれば、 \mathrm{Im} \, f_1  G_1 が同型であることを意味する。準同型定理により、

 G_3 = \mathrm{Im} \, f_2 \simeq 
G_2/\ker{f_2} = G_2/  \mathrm{Im} \, f_1 \simeq G_2/G_1

 G_2 は、 G_1 によって商空間に分解され、その各類が、 G_3 の空間の点に対応している形で分解されているというイメージで見ればよいのではないかと思う。群の場合は、準同型写像の核は正規部分群なので、\ker{f_2} は正規部分群である。 更にコホモロジーになると  G_2

 \ker{f_2}/ \mathrm{Im} \, f_1

みたいなものを定義して考えるようだ。定義からみると、他者に影響も与えないし、影響されてもいない部分を取り出して考えるということか?「完全」というのは、みな他者によって規定されていることである。

※ 短完全列を線型空間で考えれば、

 \dim{G_2} \\
= \dim{\ker{f_2}} +  \dim{\mathrm{Im} \, f_2} \\
=  \dim{\mathrm{Im} \, f_1} +  \dim{\mathrm{Im } \,f_2} \\
=  \dim{G_1} +  \dim{G_3}

つまり  G_2 G_1 G_3 に分解されている。 G_2 の基底は  G_1 G_3 の基底が決まれば定まる。//

完全系列において、 N \longrightarrow M の写像を包含写像 (埋め込み写像)  \iota と見ることもできる。

今度は、 M, N R 加群として、以下のような準同型  f,s が存在するとする。

このとき

 s \circ f = id_M

ならば、 f は単射であり、 s は全射である。

そうすると、

 N = \ker{s} \oplus \mathrm{Im} \,f

であることが証明できる。

(証明)

  \ker{s} + \mathrm{Im} \,f  \subset N

は、明らか。任意の  y \in N について、

 z=y-f(s(y)) \in N

とすると、

 s(z)\\
=s(y)-s(f(s(y)))\\
= s(y)-s(y) = 0

したがって、

 z \in \ker{s}

となる。

 f(s(y)) \in \mathrm{Im}\,f

だから、

  y \in N \subset \ker{s} + \mathrm{Im} \,f

となり、

 N = \ker{s} + \mathrm{Im} \,f

である。

直和であることを示すために、

 y \in \ker{s} \cap \mathrm{Im} \,f

とすると、

 s(y)=0 かつ  \exists x \in M, f(x) =y

であるが、

 x= s(f(x))=s(y)=0

なので、

 y = f(0)=0

である。//

このとき、 f を「分裂単射 (split monomorphism) 」であるという。同様にして、

 f \circ s = id_N

ならば、 f は全射であり、 s は単射であって、

 M = \ker{f} \oplus \mathrm{Im} \,s

となり、 f を「分裂全射 (split epimorphism) 」という。

 R 加群 (アーベル群であることに注意) の短完全列を以下とする。

このとき、

(f は「分裂単射」である)  \Leftrightarrow (g は「分裂全射」である)

が成立し、短完全列は「分裂 (split)」 するという。

(証明)

まず  f が「分裂単射」であると仮定する。すると、準同型写像  s: M \to M^{\prime} が存在して、

 s \circ f = id_{M^{\prime}}

となり、前の内容から、

 M = \mathrm{Im}\, f \oplus \ker{s} = \ker{g} \oplus \ker{s}

となる。ここで、 M^{\prime\prime}への制限写像

 g_1= g|_ {\ker{s}}

を考えると、

 g(M) = g( \ker{g} \oplus \ker{s})= \mathrm{Im}\, g_1

 g は全射なので、 g_1 も全射である。

また、

 x \in \ker{s}

として、

 g_1(x)=0

と仮定すると、

 g(x)=0

がいえ、

  x \in \ker{g} = \mathrm{Im}\, f

である。したがって、

 x = f(x^{\prime}), x^{\prime} \in M^{\prime}

となる  x^{\prime} が存在するが、

 s(x) = 0

なので、

 s(x)=s(f(x^{\prime}))=x^{\prime} =0

ということがわかり、結局、

 x=f(x^{\prime})=f(0) =0

となって、

 g_1(x)=0

ならば、

 x=0

であるから、 g_1 は、単射である。したがって g_1 は全単射から同型写像となり、このことから、

  \ker{s}  \simeq M^{\prime\prime}

である。

以上から、  f が「分裂単射」であるならば、

 M = \mathrm{Im}\, f \oplus \ker{s} \simeq M^{\prime} \oplus M^{\prime\prime}

となり、同型ならば  g_1 の逆射があり、

 g\circ g_1^{-1}= id_{M^{\prime\prime}}

なので、 g は「分裂全射」である。

逆に、 g が「分裂全射」であると仮定する。すると、準同型写像

 t: M^{\prime\prime} \to M

が存在して、

 g \circ t = id_{M^{\prime\prime}}

となり、前の内容から、

 M = \ker{g} \oplus \mathrm{Im }\, t =\mathrm{Im }\, f \oplus \mathrm{Im }\, t \simeq M^{\prime} \oplus M^{\prime\prime}

となる。射影  p: M \to M^{\prime} を考えると、

 p\circ f = id_{M^{\prime}}

であり、したがって、 g が「分裂全射」であるならば、 f は「分裂単射」である。//

ところが、一般の非可換な群の場合は、前のようにはならない。

上の図で、短完全列であることから、 G_1 G_2 の正規部分群である。最初の方の図で、

 s\circ f = id_{G_1}

を満たす全準同型写像  s が存在するならば、

 G_3 \simeq \mathrm{Im}\,t = \ker{s}

であることから、 G_3 も正規部分群である。したがって、 G_2 は直和 (直積) 分解となる。

一方、2 番目の図で、

 g\circ t = id_{G_3}

が存在していても   \mathrm{Im}\,t が一般には、 G_2 の正規部分群とはならず、 G_2 は「半直積 (semidirect product)」 G_1 \rtimes G_3 に同型となる。

「半直積」は「直積」の一般化であって、「直積」と同じように「内部半直積」と「外部半直積」の定義があるが、両者は自然に同型である。「半直積群」の例としては、正  n 角形の回転 (rotate) と鏡映 (flip) の積からなる 2n 個のシンメトリーを表す二面体群  D_{2n} をあげることができる。 D_{2n} は、巡回群  C_n, C_2 の半直積である。

 \langle a, b| a^2 = e, b^n = e, aba^{-1} = b^{-1} \rangle

(内部半直積による定義)

 G が与えられたとき、正規部分群  N \triangleleft G と部分群  H について、以下の二つは、同値な定義である。
※ 「直積」は N, H の双方が  G の正規部分群である。//

1)  G = NH, N \cap H = \{e\}

2) 任意の  g \in G について

 g = nh (または  g = hn )

となる  n \in N, h\in H がただひとつ存在する。

たとえば 1) の定義で

 g =a_1b_1 = a_2b_2

と二種類に表せたとすると

 a_2^{-1}a_1=b_2b_1^{-1} =e

となって、

 a_1=a_2, b_2=b_1

となる。

※ 結局、半直積とは  G/N \simeq H と同値のようなものだとわかる。

(外部半直積による定義)

二つの群  N, H H からN の自己同型群への準同型

 \varphi: H \to \mathrm{Aut}(N)

を与えたとき、直積集合

 G= N \times H

に以下のように演算を定義する。

 (n_1, h_1)\cdot (n_2, h_2)\\:= (n_1\varphi(h)(n_2), h_1h_2)\\=(n_1\varphi_h(n_2), h_1h_2)

ここで、 \varphi: H \to Aut(N)

 h \mapsto \varphi(h)=\varphi_h, h \in H

として、

 \varphi(h)(n) = \varphi_h(n)=hnh^{-1}, \quad h \in H, n \in N

となる共軛変換によって定め、単位元は (e_N, e_H) として定める。

そうすると、G が群を成すことが以下のように証明できる。

(証明)

1. 結合法則

2. 単位元
自明

3. 逆元
(n,h)\cdot(\varphi_{h^{-1}}(n^{-1}), h^{-1})\\=(n\varphi_{h}(\varphi_{h^{-1}}(n^{-1})),hh^{-1})\\
=(nn^{-1},e_H)=(e_N, e_H)

(\varphi_{h^{-1}}(n^{-1}), h^{-1})\cdot (n,h)\\=(\varphi_{h^{-1}}(n^{-1})\varphi_{h^{-1}}(n), h^{-1}h)\\
=(\varphi_{h^{-1}}(n^{-1}n), e_H)\\
= (\varphi_{h^{-1}}(e_N), e_H)\\
=(e_N,e_H)
//

外部半直積によって定義した半直積を

 N \rtimes_{\varphi} H

と表記し、

 \tilde{H} = \{(e_N, h)| h \in H\}
 \tilde{N} = \{(n, e_H)| n \in N\}

を それぞれ、 H, N と自然に同一視する。

 \forall x \in \tilde{H} \cap \tilde{N}

を仮定すると、

 x = (e_N, h)= (n, e_H)

なので、

 h = e_H, n = e_N

となり、

 x=(e_N, e_H)

である。逆は明らかので、したがって、

 \tilde{H} \cap \tilde{N} = \{(e_N, e_H)\}

である。

 (n, e_H)\cdot (e_N, h) =(n,h)

なので

 G = \tilde{N}\tilde{H} = N \rtimes_{\varphi} H

である。また、

 (n_1, h_1)\cdot (n, e_H)\cdot (n_1, h_1)^{-1}\\=(n_1\varphi_{h_1}(n),h_1)\cdot(\varphi_{h_1^{-1}}(n_1^{-1}), h_1^{-1})
 =(n_1\varphi_ {h_1}(n)\varphi_{h_1}(\varphi_{h_1^{-1}}(n_1^{-1})),e_H)
 = (n_1 \varphi_ {h_1}(n) n_1^{-1}, e_H) \in \tilde{N}

これから、

 \tilde{N} \triangleleft ( N \rtimes_{\varphi} H)

である。

以上から、外部半直積の定義は、内部半直積の定義と同型

 \tilde{N} \simeq N, \tilde{H} \simeq H

を通じて一致する。

さて、「半直積」について確認したところで、再び、上の図で、二つの群準同型写像  g,t に、

 g\circ t = id_{G_3}

が成立している場合を考える。 g は全射であり、 \ker{ g} G_2 の正規部分群である。また、 t は単射であり、

 \mathrm{Im}\,t \subset G_2

である。加群のときと、まったく同じ証明で、

 \forall x \in G_2

について、

 n = x\cdot t(g(x^{-1}))

とすると、

 g(n) = g(x\cdot t(g(x^{-1})))=g(x)g(x^{-1})=e_{G_3}

つまり

 n \in \ker{g}

である。

 n = x\cdot t(g(x^{-1})) = x\cdot t(g(x))^{-1}

から、

 x = n\cdot t(g(x))

であり、

 t(g(x)) \in t(G_3)

であるので、

 G_2 \subset \ker{g} \cdot t(G_3)

が成立する。

 \ker{g} \cdot t(G_3) \subset G_3

は明らかなので、

 G_2 = \ker{g} \cdot t(G_3)

 a \in \ker{g} \cap t(G_3)

とすると、

 g(x) = e_{G_3}

 a = t(h)

となる

 h \in G_3

が存在する。

 g(x)=g(t(h))=h

から

 h = e_{G_3}

である。したがって

 a = e_{G_2}

である。以上より、

 g\circ t = id_{G_3}

が成立しているならば  G_2 は 半直積

 \ker{g} \rtimes t(G_3)

となる。//

以上から、上の図の二番目が成立しているということは、 G_2 が半直積であるということと同値であり、その場合、一番目が成立することがわかる。その場合、

 n \in G_1, h \in G_3, f(\varphi_h(n)) = t(h)f(n)t(h)^{-1}

となっている。

クラインの 4 元群は、直積なので違うが、一般の二面体群が可換ではないように、直積と違って半直積の場合、 G_1, G_3 がアーベル群であっても、 G_2 は一般にはアーベル群ではない。別の反例としては、

 e \longrightarrow A_3 \longrightarrow S_3 \longrightarrow C_2 \longrightarrow e

があり、交代群  A_3、巡回群  C_2 は素数位数であることからアーベル群であるが、対称群  S_3 は可換とはならない。

※ 直積であれば、

 (g,h) =(g, e^{\prime})\cdot (e,h) = (e,h)\cdot(g, e^{\prime})

が成立するので、可換である。内部直積でも

 G =AB, a\in A, b \in B

とすれば、交換子

 aba^{-1}b^{-1}= (aba^{-1})b^{-1}= a(ba^{-1}b^{-1})

は、A,B が正規部分群なので A, B 両方に含まれる。

 A \cap B = \{e\}

なので、

 aba^{-1}b^{-1}=e, ab = ba

となる。

※ ここで挙げた準同型写像  t: G_3 \to G_2 を「切断 (section)」と呼ぶ。//

下の群と準同型の可換図式で各行は群の拡大とする。 \varphi_1, \varphi_3 が同型ならば、 \varphi_2 も同型である。

(証明)

1)  \varphi_2 が全射であること:

任意の  y_2 \in H_2 をとる。

g_2(y_2)=\varphi_3(x_3)

となる  x_3 \in G_3 が存在する ( \varphi_3 は全射から)。

 x_3 = f_2(x_2)

となる  x_2 \in G_2 が存在する ( f_2 は全射から)

 g_2(y_2) =g_2(\varphi_2(x_2))

である (g_2\circ \varphi_2 = \varphi_3\circ f_2 から)

 g_2(y_2)g_2(\varphi_2(x_2))^{-1}\\
=g_2(y_2\varphi_2(x_2)^{-1}) = e

したがって、

 y_2\varphi_2(x_2)^{-1} \in \mathrm{Ker}\, g_2 = \mathrm{Im}\, g_1

したがって、

 g_1(y_1) = y_2\varphi_2(x_2)^{-1}

となる

 y_1 \in H_1

が存在する。

 y_1 = \varphi_1(x_1)

となる  x_1 \in G_1 が存在する ( \varphi_1 は全射から)。

以上から、

 g_1 \circ \varphi_1= \varphi_2 \circ f_1

を使って、

 y_2\\
= g_1(y_1)\varphi_2(x_2)\\
= g_1(\varphi_1(x_1))\varphi_2(x_2)
 = \varphi_2(f_1(x_1))\varphi_2(x_2)\\
=\varphi_2(f_1(x_1)x_2)

したがって、任意の  y_2 \in H_2 について、

 y_2 \in \mathrm{Im}\, \varphi_2

であり  \varphi_2 は全射である。

2)  \varphi_2 が単射であること:

ある  x_2 \in G_2 について、

 \varphi_2(x_2) = e_{H_2}

である。写像の可換から、

 \varphi_3(f_2(x_2)) \\
= g_2(\varphi_2(x_2))\\
=e_{H_3}

 \varphi_3 は単射だから、

 f_2(x_2) = e_{G_3}

である。つまり、

 x_2 \in \ker{f_2} = \mathrm {Im}\, f_1

したがって、

 f_1(x_1)=x_2

となる  x_1 が存在する。

写像の可換から、

 g_1(\varphi_1(x_1)) \\
= \varphi_2(f_1(x_1))\\
=\varphi_2(x_2)\\
= e_{H_2}

g_1 は単射だから、

 \varphi_1(x_1)= e_{H_1}

 \varphi_1 も単射だから、

 x_1 = e_{G_1}
 x_2= f_1(x_1) = f_1(e_{G_1}) =e_{G_2}

したがって、

 \varphi_2(x_2) = e_{H_2}

ならば、

 x_2 = e_{G_2}

なので、 \varphi_2 は単射である。

以上、準同型写像 \varphi_2 が全単射であることを示したので、 \varphi_2は同型である。//

6-2. 分数環

環の局所化について。可換環  R の「積閉集合 (multiplicatively closed set)」と呼ばれる部分集合の要素が必ず逆元を持つように (単元になるように)、可換環  R を拡げた分数環または商環 (ring of quotients)  S^{-1}R を構成することを  R S による「局所化 (localization)」という。

可換環  R の部分集合  S で以下の条件を満たすものを「積閉集合」と呼ぶ。

1)  1 \in S,  0 \not \in S
2)  x,y \in S \Rightarrow xy \in S

直積  R \times S に今から述べる同値関係  \sim によってできる、商集合

 S^{-1}R := R \times S/\sim

を構成する。そうして  (x, s) \in R \times S が含まれる  S^{-1}R の同値類を  \frac{x}{s}=x/s と書く。なぜ同値類なのかは  2/4 =1/2 なんかを考えればすぐにわかる。

それで導入する関係は、

 (x,s) \sim (x^{\prime}, s^{\prime}) \Leftrightarrow  \exists t \in S

について、

 t(xs^{\prime}-x^{\prime}s)=0

であり、実際にこれは同値関係になる (  t は奇妙に思えるが、同値関係の推移律成立には必要。

 \frac{xs^{\prime}-x^{\prime}s}{u} =\frac{0}{t}

と仮に書いてみるとより直感的である)。

(証明)

反射律:
1(xs-xs)=0

対称律:

 (x,s) \sim (x^{\prime}, s^{\prime})

だとすると、

 \exists t \in S

について、

 t(xs^{\prime}-x^{\prime}s)=0 \Rightarrow t(x ^{\prime} s-xs ^{\prime})=0

したがって、

 (x^{\prime}, s^{\prime}) \sim (x,s)

推移律:

 (x,s) \sim (x^{\prime}, s^{\prime})
 (x ^{\prime},s ^{\prime}) \sim (x^{\prime \prime}, s^{\prime \prime})

だとすると、

 \exists t, t^{\prime}

が存在して、

 t(xs^{\prime}-x^{\prime}s)=0
 t^{\prime}(x ^{\prime} s^{\prime \prime}-x^{\prime \prime}s ^{\prime})=0
 (txs^{\prime})s ^{\prime \prime} t^{\prime} =(t x^{\prime}s) s ^{\prime \prime} t^{\prime}= (t^{\prime}x ^{\prime} s^{\prime \prime})ts
= (t^{\prime} x^{\prime \prime} s ^{\prime})ts
 \therefore (tt^{\prime}s^{\prime})(x s ^{\prime \prime} - x^{\prime \prime} s)//

商集合  S^{-1}R に、演算規則として和と積を通常の分数の計算と同じように導入する。

 \frac{x}{s}+\frac{x^{\prime}}{s^{\prime}} := \frac{xs^{\prime}+ x^{\prime}s}{ss^{\prime}}
 \frac{x}{s}\frac{x^{\prime}}{s^{\prime}} := \frac{xx^{\prime}}{ss^{\prime}}

この演算が well defined であることを証明する。

(証明)

 x/s \simeq y/t, x^{\prime}/s ^{\prime} \simeq y ^{\prime}/t ^{\prime}

とすると、  \exists p, q \in S について、

 p(xt -ys)=q(x ^{\prime} t ^{\prime}-y ^{\prime} s ^{\prime})=0

である。

和:

 pq( (x s ^{\prime} +x^{\prime} s)tt ^{\prime} - (yt^{\prime} +y ^{\prime }t)ss ^{\prime})
 =pq s ^{\prime} t ^{\prime} (xt -ys)+pqst (x ^{\prime} t ^{\prime}-y ^{\prime} s ^{\prime})=0

積:


//

この演算で  S^{-1}R が加法に関して可換群となることは、すぐに確認できる (加法の単位元は  0/s=0 である)。乗法の単位元は  1/1 であり、乗法についても環の公理を満たし、可換になることも明らかである。以上の構成により、 S^{-1}R は可換環になる。なお、0 \not \in S なので自明な環とはならない。//

 S を可換環  R の積閉集合とする。下の図で、環準同型写像  f が与えられ、 R の積閉集合  S の要素を単元に移すとすると、図の準同型  g が同型を除いて唯一つ存在することを証明する。


まず、

 x/s = (x/1)(1/s) = f_S(x)(1/s)

であるが、

 f_S(s)(1/s) = (s/1)(1/s) = 1

から、

 1/s = f_S(s)^{-1}

であり、したがって、

 x/s = f_S(x)f_S(s)^{-1}

と書けることに注意する。そこで、

 g(x/s) = f(x)f(s)^{-1}

と定める ( x \in R, s \in S)。

1)  \mathrm{well-defined} であること:

 x/s = y/t

とすると、ある  u \in S が存在して、

 u(xt-ys) = 0

となる。すると、

 0 = f(u(xt-ys)) = f(u)(f(x)f(t)-f(y)f(s))

となる。ところが、 f(u) R^{\prime} の単元だから、

 f(x)f(t) = f(y)f(s)

つまり

 f(x)f(s)^{-1} = f(y)f(t)^{-1}

である。よって

 g(x/s)=g(y/t)


2)  g が準同型であること:

 g(x/s + y/t) \\
= g( (xt+ys)/st)
 = f(xt+ys)f(st)^{-1}\\
 = (f(x)f(t)+f(y)f(s))f(s)^{-1}f(t)^{-1}
 = f(x)f(s)^{-1} + f(y)f(t)^{-1}\\
=g(x/s) + g(y/t)

同様にして、

 g( (x/s)(y/t)) = g(x/s)g(y/s)

を示すことができ、 g は、環準同型である。

3)  f = g \circ f_S となること (可換であること):

 a \in R とすると、

 g \circ f_S(a) = g(a/1) = f(a)f(1)^{-1} = f(a)

である。

4)  g の一意性:

 g^{\prime} \circ f_s = f

となる 準同型  g^{\prime} があったとすると、

 g^{\prime} (x/s) \\
= g^{\prime}(f_s(x)f_s(s)^{-1}) \\
= g^{\prime}(f_s(x)) g^{\prime}(f_s(s))^{-1}\\
=f(x)f(s)^{-1}

となるので、

 g = g^{\prime}

である。//

 f_S は、

 f_S(x) = x/1

により定義され、環準同型であることは簡単に確認できるが、これを標準的な準同型写像 (標準写像)とか、自然な準同型写像 (自然な写像)とか言ったりする。 f_S の核は、

 f_S(x)=x/1=0

から

 \mathrm{Ker}\, f_S=\{x \in R| \exists s \in S, sx=0\}

である。つまり、 Sに零因子が存在しなければ、 f_S は単準同型であり、RS^{-1}Rの部分環とみなせる。//

※ 「普遍性」について
上記は「普遍性」にもとづくものだが、ここでは直積を使って、「普遍性」についてよくあるような説明をしておく。

射影

 p(x,y) = x, q(x,y)=y

が与えられ、図のように任意の写像  f,g があるとき、 w \in W について、

 h(w) = (f(w), g(w))

と定義すれば、明らかに

 p(h(w))= f(w)\\q(h(w))=g(w)

が成立する。また、 p f(w) に、 q g(w) に移る X \times Y の要素は、 (f(w), g(w)) しかないので、写像  h は (同型を除いて) ただ、ひとつに定まる。

以下のように可換図を合成すると、 i \circ h = h \circ i = 1 から  h は同型を与えていることが確認できる。


//

ところで、「積閉集合」と「素イデアル」の定義を見較べるのは、価値がある。

「積閉集合」の定義:

可換環  R の部分集合  Sで以下の条件を満たすものを「積閉集合」と呼ぶ。

1)  1 \in S,  0 \not \in S

2)  x,y \in S \Rightarrow xy \in S


「素イデアル」の定義:

可換環 R のイデアル  I が、

 I \neq R

(つまり、 1 \not\in I) であって、

 ab \in I

ならば、

 a \in I または  b \in I

であるとき (対偶を取れば  a,b \not \in I ならば  ab \not \in I であるとき)「素イデアル」という。

※ なお、イデアルは  0 を含んでいる。//


P を可換環 R の素イデアルとする。このとき、 S = R\backslash P は積閉集合になる。

(証明)

まず、素イデアル  P は真のイデアル

 P \neq R

なので、

 1 \in S。また

 0 \in P

なので

 0 \not \in S

 s, t \in S だとすると、

 s, t \not \in P

である。すると、

 st \not \in P

だから、

st \in S

である。//

この  S によって局所化された R の分数 (商) 環  S^{-1}R を、特別に  R_P と書く。一般に、ただ一つの極大イデアルしか持たない可換環を「局所環」という。 R_P が局所環であることは、これから示す。

なお、次の事実は、ここでは証明なしで認めておくことにする*1

「自明でない可換環  R において、真のイデアル  I \neq R を含む極大イデアルが存在する」

それで次を証明する。

 A が局所環である \Leftrightarrow A\backslash A^{\times} が唯一の極大イデアルである」

(証明)

A が、局所環であるとすると、唯一の極大イデアル  M を持つ。Mは真のイデアルであることから、

 M \subset A\backslash A^{\times}

は自明である。また任意の

 x \in A\backslash A^{\times}

について、 Ax も真のイデアルであり、したがって AxA のある極大イデアルに含まれるが、A は局所環なので、極大イデアルを M しかもたない。すなわち

 A\backslash A^{\times} \subset M

である。以上から、

 M = A\backslash A^{\times}

が出る。

逆は、単位イデアルでない任意のイデアルは

A\backslash A^{\times}

に含まれることから明らかである。//

 R_P は、局所環で、その唯一の極大イデアルは、

 PR_P := \{x/s| x\in P, s \not \in P\}

である」

(証明)

 PR_PR_P のイデアルであることはイデアルの定義からすぐに確認できる。したがって、

 PR_P = R_P\backslash R_P^{\times}

を示せば、上の結果から PR_P は唯一の極大イデアルである。

 R_P\backslash R_P^{\times} \subset PR_P

を示すために

 R_P\backslash PR_P \subset R_P^{\times}

を示す。任意の

 x/s \not \in PR_P

について、

 x \not \in P

だから、x は逆元をもち、

 (x/s)(s/x) =1

から、

 x/s \in R_P^{\times}

である。

 PR_P \subset R_P \backslash R_P^{\times}

は明らかである。//

代数入門―群と加群 (数学シリーズ)

代数入門―群と加群 (数学シリーズ)

*1:証明はZornの補題を使って示せる。その概略は真のイデアルすべての和集合  \mathcal{I} を作り、  \mathcal{I} がイデアルになることを示し、集合の包含関係を順序としたときの上界となることを示すことである