雑記 (52)

入射加群は、可除加群 (divisible module) の概念が必要となる。

(定義)

 R 加群  M について、任意の  x \in MR の非零因子でない要素  a が与えられたとき、 ay = x を満たす  y \in M が存在すれば、 M を可除加群という。//

※ 非零因子 (non zero divisor) とは、任意の  b \in R \backslash \{0\} に対して、 ab \neq 0, ba \neq 0 となる  a \in R をいう。//

 \mathbb{Q} は可除加群である。また、 \mathbb{Q}/\mathbb{Z} も可除加群である。//


入射  R 加群は可除加群である。

(証明)

 I を入射加群とし、 x \in Iとする。また  a \in R を非零因子とする。

 f(b) = ba は明らかに単射準同型。 g(b) = bx とする。そうすると  g=h \circ f となる  h が存在する。

 h(f(1))=h(a)=ah(1)=x であり、任意の  x \in IR の任意の零因子でない要素  a が与えられたとき、 ay = x を満たす  y = h(1) \in I が存在する。//

※ 次の証明は、「Zorn補題」を使う。つまり、順序集合  (X, \leq) の空でない任意の全順序部分集合が  X において上に有界なとき、 X は少なくとも一つ極大元  x_0 を持つ。つまり  x_0 \leq x ならば  x = x_0 ということ。//

アーベル群 ( = \mathbb{Z}加群)  \mathbb{Q}/\mathbb{Z} は、入射加群である。

※ 環が PID (単項イデアル整域) の可除加群であれば、入射加群であるということが実は言える。//

(証明)

「Baer の判定法」として知られている次の内容を示せばよい (要するに入射加群の定義を確認すればよい)。

単射準同型  N \to M が与えられたとき (このとき、この単射を通じて  NM の部分群とみなせる)、準同型  f: N \to T \bar{f}: M \to T に拡張できる。

いま、集合  X

 X := \{(f_i, M_i)_{i \in I}| N \subset M_i \subset M, f_i|_N = f\}

として定めると、 N X に含まれているので、 X空集合ではない。いま  M_i  \subset M_j かつ  f_i = f_j|_{M_i} のとき、 (f_i, M_i) \leq (f_j, M_j) として X の順序を定める。また  Y X の全順序部分集合とする。f_{sup} をそれぞれの  M_i において  f_{sup} := f_i と定め、 M_{sup} := \bigcup_{i \in I} M_i とすれば、 (f_{sup}, M_{sup}) \in X で、この組は、 Y の上界を与える。したがって、Zorn補題により、 X には極大元  (f_0, M_0) が存在する。

次に、 M_0 = M であることを示すために、 M_0 \subsetneq M と仮定して矛盾を導くこととする。

仮定より、 x \in M \backslash M_0 となる元が取れるので、その元を使って
 M_1 := M_0 + \mathbb{Z}x とおく。

 \mathbb{Z}x \cap M_0 は (単項) イデアルなので、ある  n \in \mathbb{Z} によって、 \mathbb{Z}nx と書ける。 a= f_0(nx) とおく。このとき、写像 f^{\prime}|_{M_0} :=f_0,  m \in Z について  f^{\prime}(mx) := (m/n)a として定義してやれば、この写像 M_1 全体で定義される  T への準同型写像となることが確認できる。  (f^{\prime}, M_1) の組の存在は、 (f_0, M_0) が極大元であることと矛盾する。//