雑記 (22)

完全に勘違いしていて、b 多項式微分作用素自体も明示的に求めるのは簡単ではないってことが分かってきた。それなので、b 多項式の存在と一意性の証明だけでなく、b多項式をどうやって計算するのかも応用上は重要になってくる。

これは、かなり難しそうなので、「見切り発車」はやめて、道は遠いが、まず代数の基本構造を整理してみることにする。いうまでもなく、それは「群」「環」「整域」「体」 と言われる集合に演算が導入された構造のことである。

その中でとりわけ重要なことの一つは、演算は一般には「非可換」であり、それが「可換」であるための一般的条件を調べることが、美しい普遍な数学的構造を見いだすのにしばしば繋がっているということだ。

たとえば、自然数  1, 2, \cdots, n の順番を変えること(それは、番号が重複しないで、元のすべての番号が出てくるように番号を付け替えるのと同じことである。つまり、「置換」という演算は、有限個の集合から自分自身への同型写像のことである)は一般には交換しない。

たとえば、

 (2,3)(1,3) は、右から左へと写像の合成のように適用されていくと考えると、

 1 \to 3 \to 2 \\ 2 \to 2 \to 3\\ 3 \to 1 \to 1

なので  (1,2,3) であるが、 (1,3)(2,3) は、

 1 \to 1 \to 3 \\ 2 \to 3 \to 1\\ 3 \to 2 \to 2

なので  (1, 3,2) となって交換しない。

つまり、二つの置換 \sigma, \tau は、一般には

 \tau \sigma \neq \sigma \tau

である。それでは、ということで代わりに

 \tau^{\prime} \sigma = \sigma \tau

となるような置換  \tau^{\prime} を見つけることにしよう。このとき、置換 \sigma を介して、置換  \tau と置換  \tau^{\prime}は同型で、その関係を「共軛(役)」であるという。数学のあらゆるところに顔を出すこの言葉の「軛」は「くびき」の意味である。

上の関係から、

 \tau^{\prime} = \sigma\tau\sigma^{-1}

である。もし、可換で \sigma\tauを交換できるならば、

 \tau^{\prime} = \tau

であることはすぐにわかる。\tauが、

 \tau = \alpha \beta \gamma

という置換の積であらわせるとすると

 \tau^{\prime} \\
= \sigma \tau \sigma^{-1} \\
= \sigma\alpha\beta\gamma\sigma^{-1}
 = \sigma\alpha(\sigma^{-1}\sigma)\beta (\sigma^{-1}\sigma)\gamma\sigma^{-1}
=  (\sigma\alpha\sigma^{-1})(\sigma\beta \sigma^{-1})(\sigma\gamma\sigma^{-1})\\=\alpha^{\prime}\beta^{\prime}\gamma^{\prime}

である。

群の部分集合が、その集合に含まれる要素の範囲内でまた群として閉じるとき、その部分集合を元の群の「部分群」という。

そうすると、元の群の要素数(位数と呼ぶ)が有限であればその部分群で必ず割り切れる(類別できる)ことが示せる。集合の全部の要素を「もれなく、重複させないで」いくつかの部分集合に分けることを「類別」という。たとえば、整数を 3 で割って「余りが 0」の部分集合、「余りが 1」の部分集合、「余りが 2」の部分集合ができるが、ここで、

{余り 0 部分集合, 余り1 部分集合, 余り 2 部分集合}

という部分集合を要素とする集合を考えて、「商集合」と呼ぶ。つまり、下の二つの集合を区別すること。


整数の「商集合」 ={余り 0 部分集合, 余り 1 部分集合, 余り 2 部分集合}

整数の集合 =  \{\cdots, -1, 0, 1, \cdots \}


念のため、余り 0 の部分集合を A とかけば、

 A \subset 整数の商集合

は間違いで、

 A \in 整数の商集合

である。つまり、 A \in \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} である。


 G の部分群  H をベースにして以下の手続きで、群  G の商集合を作ることができる。

部分群  H には属さない群  G の要素  p ( p \in G \backslash H)に対して、部分群  H のすべての要素と演算したものの集合( G の部分集合である)を考え、 pH と書く。

このとき、部分群  pH の任意の要素 に対して左から p^{-1}を作用させれば、部分群 Hの元の要素が再び必ず得られるので可逆操作であり、部分群 Hと部分集合  pH は同型である。したがって部分群  H と部分集合  pHの要素数は等しいと結論できる。また、部分集合 pHと部分群  H の間に要素の重複はない。なぜなら

 ph = p' (p \in G \backslash H, h\in H)

とし、 p^{\prime} \in H と仮定すると

 p = p^\prime h^{-1} \in  H

となって矛盾するので  p^{\prime} \not\in H である。

さらに続けて、部分群  H にも、部分集合  pH にも属さない群  G の要素がまだあれば、その中の要素  q に対して、同じように 部分群  H のすべての要素と演算した部分集合  qH を作る。部分集合  pH のときと同じ議論によって、部分集合  qH の要素数も、部分群  H の要素数と等しく、また重複する要素もない。さらに、部分集合  pH と 部分集合  qH の間にも重複要素はない。なぜならば、 h, h^{\prime} \in H に対して、

 qh = ph^\prime

だとしたら、

 q = ph^{\prime}h^{-1}

から、 q \in  pH となり、 q の取り方に矛盾するからである。

以上の手続きを繰り返すと、有限な群  G の要素はすべて、部分群  H か、いままでに作成した部分集合のどれかに属することになる。なぜならば、もし、いずれにも属さない群  G の要素の数が部分群  H の要素数未満だと仮定すると、その余った要素の中から、どれでもいい要素  r をとり、部分集合  rH をつくると、その要素数は、部分群  H の要素数と等しくなり矛盾してしまうからである。

このようにして部分群から作った部分集合たちは、群 G の要素の取り方によらずただひとつに決まること(well definedであること)を示す。群  G の要素  x が、ある手続きでは部分集合  aH に属し, 別の続きでは 異なる  a^{\prime}H に属していたとする。つまり、

 x = ah = a^{\prime}h^{\prime}

となる部分群  H の要素  h, h^{\prime} がある。そうすると

 a = a^{\prime} h^{\prime}h^{-1}

であるが、

 aH \\
= a^{\prime} (h^{\prime}h^{-1} H) \\
= a^{\prime}H

となり、部分集合は異なると仮定したこととと矛盾する。したがって、どんな手続きでも、部分集合は一致する。

以上のことから、以下の商集合  G/Hが作れる。

 G/H =\{H, pH, qH, \cdots \} \\
    =\{ eH, pH, qH, \cdots\}

また、いままでの議論から

(部分群 H の要素数) x (部分集合の数) = 群 Gの要素数

となる。ここで部分集合の数には部分群 Hも内数として含まれている。

群の要素数のことを群の「位数」, 部分集合の数を「指数」という習慣になっており、群  G の位数を |G |、指数を  |G:H|と書く。つまり、

 |H||G:H| = |G|

となる。これを「ラグランジュの定理」と呼ぶ。ただし、|G| の約数に対応する部分群が、存在するとは必ずしも限らないので、この定理はもし部分群が存在すれば、部分群の位数 は 群 G の位数の約数になるということである。

以上で G/H は「商集合」となったが、商集合 を更に「商群 (剰余群ともいう)」にしたい。つまり、部分集合を要素にして、群  G と同じ演算ができるようにして群にしたいのであるが、そうしようとすると、困ったことがある。

たとえば、部分集合  aH から要素  ah 、部分集合  bH からは、要素  bh^{\prime} を取りだして両者の積をつくってみる。

 ahbh^{\prime}

もし、上の項の 2 番目の  h と 3番目の  b が交換してくれれば、

 ahbh^{\prime} = abhh^{\prime}

となり、 hh^{\prime} \in H だから、部分集合  abH に属することとなって、めでたしめでたしだが、そもそも交換法則は一般には成立してなかったのだから、こうはならない。

そこで、部分群  H の要素  h と「共軛な要素」  h_{c} が必ず部分群  H に含まれていて、

 h = b h_{c}b^{-1}

が成立するとしたら、

 ahbh^{\prime} \\
= a(b h_{c}b^{-1})bh^{\prime}\\
= ab(h_c h^{\prime}) \in abH

となって、交換法則が成立していなくても、部分集合同士の演算が可能になる。つまり、部分群 H単位元とみなし、部分集合 aH の逆元は、部分集合  a^{-1}H とすれば、商集合  G/H は部分集合を要素とする「群」になる。

そのためには、部分群  H の任意の要素  h を 群  G の任意の要素 g で変換した共軛要素

 ghg^{-1}

も部分群  H に含まれているということが必要である。つまり、

 (\forall g \in G, h \in H) ghg^{-1} \in H

ということで、これは、

 (\forall g \in G) gHg^{-1}= H
 (\forall g \in G) gH= Hg

と同じことである。いままでは 左側からの gHで商集合を作ったが、まったく同じ議論を繰り返せば、右側からの Hg でも商集合は作れる。そうすると、先ほどの条件は、

「左商集合と右商集合が一致する」

とも言える。このような条件を満たす部分群 H 、つまり自身の任意の要素の共軛要素をおのれにもっている部分群を「正規部分群」といい、非常に重要な概念になる。なお、環の「イデアル」とは、群の「正規部分群」に対応するものである。

G は、自分自身と群  \{e \} を必ず正規部分群にもつが、この二つを「自明な」正規部分群という。それ以外の正規部分群を群 G がもたない場合、群  G は「単純群」であるといわれる。また、演算がもともと交換できるアーベル群 (可換群) の場合は、部分群はすべて正規部分群となることがわかる。

※ 共軛変換

 \tau^{\prime} = \sigma \tau \sigma^{-1}

は重要なので、直感的にわかるように記述してみる。

例として,  n = 5 とし、全体の変換を次のように書いてみる。

 \sigma(1) \to 1 \to  \tau(1)  \to \sigma(\tau(1))
 \sigma(2) \to 2 \to  \tau(2)  \to \sigma(\tau(2))
 \sigma(3) \to 3 \to  \tau(3)  \to \sigma(\tau(3))
 \sigma(4) \to 4 \to  \tau(4)  \to \sigma(\tau(4))
 \sigma(5) \to 5 \to  \tau(5)  \to \sigma(\tau(5))

始めと終わりだけ書くと、

 \sigma(1) \to \sigma(\tau(1))
 \sigma(2) \to \sigma(\tau(2))
 \sigma(3) \to \sigma(\tau(3))
 \sigma(4) \to \sigma(\tau(4))
 \sigma(5) \to \sigma(\tau(5))

である。そうすると、 \tau を巡回置換で考えれば、

 (\sigma (s_1),\cdots , \sigma (s_n)) = \sigma (s_1,\cdots, s_n)\sigma^{-1}

ということであり、巡回置換の長さは変わらないことがわかった。任意の(長さ3以上の)巡回置換は互換の積に分解できる。実際、以下を帰納的に証明すればよい。

 (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7)\\
= (1, 7)(1, 2, 3, 4, 5, 6)\\
= (1, 7)(1, 6)(1, 2, 3, 4, 5)
= (1, 7)(1, 6) (1, 5)(1, 2, 3, 4) \\
= (1, 7 )(1, 6)(1, 5)(1, 4)(1, 2, 3) \\
= (1, 7)(1, 6)(1, 5)(1, 4)(1, 3)(1, 2)

以上から巡回置換の共軛変換では偶置換か奇置換かの偶奇性(パリティ)も変わらない。また、証明は書かないが、すべての置換は巡回置換の積であらわすことができる。さらに、下の関係が成立していた。

 \tau^{\prime} \\
= \sigma \tau \sigma^{-1} \\
= \sigma\alpha\beta\gamma\sigma^{-1}
 = \sigma\alpha(\sigma^{-1}\sigma)\beta (\sigma^{-1}\sigma)\gamma\sigma^{-1}
=  (\sigma\alpha\sigma^{-1})(\sigma\beta \sigma^{-1})(\sigma\gamma\sigma^{-1})\\=\alpha^{\prime}\beta^{\prime}\gamma^{\prime}

したがって、 \alpha, \beta, \gamma を巡回置換だと考えれば、その共軛である \alpha^{\prime}, \beta^{\prime}, \gamma^{\prime}も長さを変えないし、偶置換、奇置換も変化はない。

具体的な計算として、たとえば

 \tau^{\prime} = (2, 4)(1, 2, 3, 4)(2, 4)

を計算するには、 (1, 2, 3, 4) の 2 を 4 に、4 を 2 に変えればよいだけである。したがって、

 \tau^{\prime} = (1, 4, 3, 2)

また、

 (1, 4, 3, 2) = \sigma(1, 2, 3, 4)\sigma ^{-1}

 \sigma をもとめるには、二つの巡回置換の数字がどう変換されているかを調べるだけである。

 n 個の要素の置換(自己同型写像とみなせる)を考える。その写像を要素とする集合は写像の合成を演算として群をなし、それを対称群  S_n というのであった。ところで、偶置換同士の積は、また偶置換である(奇置換は明らかに違う)。なお、単位置換 (恒等写像)  e は偶置換とみなす。偶置換の逆置換は、やはり偶置換である。結合法則はもともと成立している。以上のことから、偶置換全体の集合は対称群  S_n の部分群となっている。 この部分群には特別な名前がついていて「交代群  A_n」という。

交代群正規部分群である。なぜなら、 \tauを偶置換としたとき、共軛変換 \sigma\tau\sigma^{-1} は、 \sigma がなんであれ必ず偶置換となるからである。また、奇置換は単位置換 
e を持たないし、奇置換と奇置換の積は偶置換になるので、群にはならない。しかし、対称群は交代群という正規部分群により類別され、奇置換の集合は商群の要素になる。それが、商群  S_n / A_n である。

 S_n / A_n = \{eA_n,  (1,2)A_n \}

つまり、 S_n / A_n は、2つの要素しかない群  \{e, (1,2) \}と同型になる。

なお、群  G を部分群  H によって類別したとき、左商集合が  \{eH ,  aH \} しかなく、右商集合は  \{ He,   Ha \} しかなかったする。そうすると、

 aH = Ha

だから、部分群  H は必ず正規部分群になる。

エヴァリスト・ガロアの遺書には以下のような文面があるが、彼が「固有分解」と呼んだものこそ、「正規部分群」による「商群」のことに他ならない。

1. 第一論文の命題 II と III によれば、方程式にその補助方程式の根を一つ添加する場合と、全部を添加する場合とでは、大変な違いがある。

このような添加をするとき、どの場合にも、方程式の群は、同じ置換によって互いに隣り合う組へと、分解される。しかし、これらの組が同じ置換を持つという条件は、第2の場合しか成立しない。これを固有分解と呼ぶ事とする。

いいかえると、群 G が群 H を含むとき、群  G は、

 G = H + HS + HS^{\prime}+ \cdots

と、H の順列に同じ置換を掛けて作られる組へと分解されるし、また

 G = H + TH + T^{\prime} H + \cdots

と、同じ置換にHの順列を掛けて作られる組へとも分解される、

この二通りの分解は、通常は、一致しない。一致するときが、固有分解と呼ばれるものだ。