雑記(9)

カノニカル(ボルツマン)分布を連続化するために、 E から  E + \delta E\delta E の間にエネルギーの異なる状態が  \rho(E) あると考えて、ここでの確率密度を p(E) であるとする。すると分布関数  Z

 Z \approx \int \rho(E)\exp(-\frac{E}{k_BT})dE

になる。そもそも熱力学のエントロピー変化のミステリアスな式に見られるように、温度  T は、逆数で使うことで理論的に深い意味が出てきそうなので、よくやられるように逆温度  \beta

 \beta = \frac{1}{k_BT}

と書くことにする。そうすると、

 Z(\beta) \approx \int \rho(E)e^{-\beta E}dE

となるが、これから直ぐにわかるのは、

 E_{ave} = - \frac{1}{Z}\frac{\partial Z}{\partial \beta}= -\frac{\partial log Z}{\partial \beta}

ということである。さらに逆温度ではなく、温度で微分したものは、

 E_{ave} = -\frac{\partial log Z}{\partial T}\frac{\partial T}{\partial \beta} = k_B T^2 \frac{\partial log Z}{\partial T}

となる。


さて、 \delta(E) = \log \rho(E) として、さらに分子数 n を表に出すように書きかえると、

 Z(\beta)  \approx  \int_a^{b} \exp[\delta(E)-\beta E]dE\\= n\int_{a/n}^{b/n} \exp[n(\delta(u)-\beta u)]du

「大偏差原理」のベースになっているのは、ピエール=シモン・ラプラス(したがって、ここの話しをラプラス変換と対比したくなる) によって導入された指数型の関数の近似積分法に基づくものである。

 \int_a^b\! e^{M f(x)} \, dx

厳密な形式化を置いておけば、上のような積分で、関数  f(x) (二階微分可能) が上に凸で、積分区間の端でない内側の  x_0 で最大値 f(x_0)を 一つだけ持つ場合、 M が非常に大きい数になるのであれば、 Mをパラメータとするスケール変換が指数型なので、積分の結果は  x_0の近傍の関数値だけで決まってしまう(要するにデルタ関数に近づいていく)。また積分区間は必ずしも無限である必要はないこともわかると思う。


再び分配関数に戻ると、

 Z(\beta)  \approx  n\int \exp[n(\delta(u)-\beta u)]du

ここで、

 f(u)=\delta(u)-\beta u

とおくと、第一項は状態密度の対数で上に凸の関数であり、第二項は温度が一定なので線形項であり、凸性に影響を及ぼさない。極値(最大値)をひとつだけ持つことも問題ない(適当な温度条件は必要だが)。二階微分もできるとしていいだろう。以上より、 n \to \infty のとき、

 Z(\beta)  \approx    n\exp[n \sup_{u}\{\delta(u)-\beta u\}]

 \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} Z(\beta)  = \exp[n \sup_{u}\{\delta(u)-\beta u\}]

となる。

すると、そもそもカノニカル分布を導出するのに、ヘルムホルツの自由エネルギーが最小になる条件を使ったことと整合する。単位分子あたりでヘルムホルツの自由エネルギーを評価すると、

 F = - \frac{1}{n\beta}\log Z\\
\approx   -\frac{1}{\beta}\sup_{u}\{\delta(u)-\beta u\}\\
= \inf_{u}\{u - \frac{\delta(u)}{\beta} \}

となる。