雑記 (5)

エントロピーを以前は「乱雑さ」を表す物理量というニュアンスで捉える人が多かったように思うが、エコロジー教育が浸透してきている影響だろうか、最近は、エネルギーの「質の悪さ」の尺度として捉える人もいる。考えてみると、確かに、可逆であるカルノー・サイクルの等温膨張過程において、熱源 (温度  T ) から「仕事」として使うために熱 Q がシリンダーに移動したとき ーー「熱」と「仕事」ではエネルギー移動のやり方が異なっているーーエントロピー S の「変化 (勾配、傾き、一次微分係数)」  \Delta S は、

 \Delta S = Q/T

で定義されるが、 T \to 0 のときは、 \Delta S  \to \infty,  T \to \infty のときは  \Delta S \to 0 となることからわかるように、 \Delta S は温度が高い程小さくなっていくので、 \Delta S を熱源から熱  Q を「仕事」をするために受け取るときの「受け取りにくさ」を示す量と想像できないこともない。

熱機関の可逆サイクルで、高温度  T_1 の熱源から、熱  Q_1 を吸収し、仕事  W を外部にして、熱  Q_2 を環境 (低温度  T_2 の熱源) に捨てるとすると、可逆サイクルなので、1 サイクルしたときは、すべてが元に戻っていないといけないことから、エネルギーも、エントロピーも保存していないといけない。つまり、

 Q_1 - W - Q_2 = 0
 Q_1/T_1 - Q_2/T_2 = 0

となり、これから、

 W = Q_1 - Q_2 = Q_1 (1- \frac{T_2}{T_1})

となる。したがって、熱量  Q_1からどれだけの仕事  W を 1 サイクルで「外」に取り出せるかという効率 は、

 \frac{W}{Q_1} = 1 - \frac{T_2}{T_1}

である。これが最も効率が良いが、現実には役に立たない熱機関の効率であり、 T_1 が大きいほど効率が良くなることがわかる。電気エネルギーや力学的エネルギーを仕事に変える最大効率は、 1 であるが、熱エネルギーの場合は、損失率  \frac{T_2}{T_1} を最低でもかならず持つということである。逆にいうと最も効率の良い理想的熱機関が、「仕事」に変えられないことで環境に捨てる最少限界値としての廃熱  Q_2 は、

 \begin{align}Q_2 &= Q_1 - W \\ &= T_2 \Delta S_1 \end{align}

である。 T_1 の温度が低いほど、 \Delta S_1 が大きくなるので、T_2 を基準温度として固定して考えると、損失する熱量  Q_2 \Delta S_1 に比例する \Delta S_1 は、熱量を仕事として取り出すための「困難さ」のようなものを表していると、まさに見なしてよい。

環境に「熱」として捨てられたエネルギーを再び利用することは簡単ではない。ペットボトルのリサイクルがエネルギー資源の観点から本当に正しいのかという議論があったように、物はリサイクルできてもエネルギーのリサイクルは現実的ではないということから、エントロピーがエネルギーの「質の悪さ」という観念に結びついたのだと思う。

※ 注: カルノー・サイクルには、1 サイクル中に、

1) 等温膨張
2) 断熱膨張
3) 等温圧縮
4) 断熱圧縮

の 4 つの過程があるが、1) では準等温状態 (ということは内部エネルギーに変化はない) でシリンダーの気体体積が増えるので、熱はすべて仕事に変わり、エントロピー Q_1/T_1 増え、2) では、熱の出入りがない準静的断熱過程でシリンダーの気体体積が増えるのでエントロピーが増えるが、温度 (気体分子の平均運動エネルギーに比例する量だ) が下がることによるエントロピーの低下がそれをキャンセルして、エントロピーの増減は差し引きゼロである。3) では、熱源に熱を放出するので、エントロピー Q_2/T_2 だけ減る。4) は 2) と正反対の過程で、エントロピーの増減はやはりない。

なお、1 サイクルで外に取り出せる正味の仕事は 1) から 4) の過程の仕事の合計

 W = W_1 + W_2 - W_3 - W_4

のことである。