雑記 (3)

ベクトルの内積というと、なぜか自分は、(力学的)「仕事」を真っ先にイメージしてしまう。

「仕事」について、

物体に力を加えて、物体が力の向きに移動したとき、力は物体に仕事をしたと言い仕事の量は力と移動距離の積で与えられる。

と説明しているものがある。まずはシンプルにここでいう「物体」とは質点のことであるとしよう。すると大事なことは、「仕事」に寄与する力 (ベクトル) の方向は、質点の移動方向と「一致している」成分だけである。したがって仕事とは、力 \mathbf{F} と質点の運動方向の微小変位  \mathbf{ds}内積 \mathbf{F}\cdot \mathbf{ds}を移動範囲で積分したものとなる。つまり、場所 1 から 2 に質点が移動したとして、

\int_1^2 \mathbf{F}\cdot \mathbf{ds}

となる。すると仕事とは、場所 2 と 場所 1 における質点の運動エネルギーの差に等しいということがすぐに了解され、それは、たとえ今考えている力がポテンシャル・エネルギーの勾配に由来する保存力でなくても成立することがわかる。なお、「仕事」は負であっても別に構わず、正ならば加速、負ならば減速させるような力が働いていると考えれば良い。

以上からわかるように、質点に速度の向きと直角の向きを持つ一定の大きさの力を与え続けても、「仕事」はゼロで、質点の速度の大きさは同じままで (運動エネルギーが同じままで)、向きだけが一定角度だけ変わり続けて円運動する。「仕事」がゼロのとき、永遠に動き続けることが否定されているわけではない。

次に「物体」が一つの質点ではなく、自分の都合の良いように選んだ複数の質点の集合で構成された「質点系」であるときを考える。実際には「物体」を適当に複数のブロックに分割して、それぞれのブロックを質点と考えることもよく行われる。いま、ある質点系に含まれる任意の質点同士の間に働く力を「内力 (材料力学では応力と呼ぶ) 」、そうでなく系の外部から系の質点に働く力を「外力」と呼ぶ。ニュートンの「作用反作用の強法則」が成立しているとすれば、例えば、質点 1 から質点2 に働く「内力」には、かならず反対向きの質点2 から 質点 1 の「内力」が同じ作用線上に存在していて打ち消しあっている。

系に含まれる全質点には重心 (質量中心) が定まることはよく知られているが、重心の運動は、系の質点すべての質量が重心に集まり、すべての外力の合力が重心に作用するかのように運動する。また系の質点すべての運動量の合計は、重心の運動量に等しい。したがって、すべての外力の合力がゼロであれば、系の全運動量は保存される。

系の全角運動量については、重心の角運動量と重心の周りの各質点の角運動量の和である。

それで、問題は質点系の「仕事」であるが系の重心に対する仕事は、系のすべての外力の合力と重心の運動方向の微小変位の内積 (の積分) によって定まる。つまり、内力を「重心」の仕事 (重心の運動エネルギー変化) に直接は寄与させないで、外力の合力と重心の運動方向だけで重心になされる仕事を求めることができる。

[例]

ブランコの座板 (質点1) とそれに座っている人間 (質点 2) をそれぞれ質点系の質点とみなす。台座に一方の端が取り付けられた鎖の他端は、水平な支柱と繋がっていて、座板を揺動できるようにしてある。台座を支える鎖の張力は、質点 1 の外力である。また質点 1 と 質点 2 にはそれぞれ重力がかかっているがこれも外力である。台座が下に振れたときに質点2 は立ち上がり (質点 1 と質点 2 の重心を上げる)、上に振れたときは体を低くする (質点 1 と質点 2 の重心を下げる)。体を上げたり下げたりする力は、質点 2 から質点 1 への内力であり、その反対向きの同じ大きさの力である質点 1 から 2 の内力が存在する。

人間が体を上げ下げしなければ、重心にかかる鎖の張力は、重心の運動方向に対して直交しているため、鎖の張力は重心に対して仕事をしない。しかし、板が上から下に振れているときに重心を上げていき、板が下から上に振れるときに重心を下げると、重心を上げるときは鎖の張力が強くなり、重心を下げるときには張力は弱くなる。また、重心を上げ下げすると鎖の張力の方向は、重心の運動方向とは直交しなくなるため、鎖の張力は重心に対して仕事をする成分をもつようになる。鎖の張力が重心に対してする仕事は、板が下から上に振れるときは負の仕事であり、上から下に振れるときは正の仕事である。しかし、正の仕事をするときのほうが負の仕事をするときよりも張力が強いことから、正味では正の仕事をする。こうして、ブランコの揺れを大きくすることができる。