英語の勘所 (7)

少しでもやる気のあるうちになるべく書くことにする。

 

20 世紀前半の音楽を聞いたり、映画を見たりすることにたいして、「好きだから」以外の回答として、その時代の作品を「過去形」として捉えてはならず「現在完了形」として捉えねばならないからだというのがあり得る一つの回答だが、よく考えてみると現在は消費するもので、消費が終わったものは「過去形」なのだと考えているとしか思えない「大衆消費社会」でそんなことを言っても通じるはずがないとも思う。

 

過去形は過去の出来事を「過去」に閉じ込めるものである。そのために「過去形」ではいつも聞き手がその出来事が過去のいつのことであることの存在証明を確認することを求められる。たとえば、

 

John met a woman at the party last week. Her name was Linda. 

 

において、過去の特定の時間を明示した ”last week” が一番目の文の最後にある。二番目の文中には過去の特定の時間は明示されていないが、その場合は周囲を検索して過去であることの存在証明を発見できる必要がある。この場合はすぐ前に “last week” が存在している。過去形はあくまで過去のことで現在とはなにも繋がりがないので、二番目の文、 

 

Her name was Linda. 

 

は、「いまも彼女の名前がLindaである」ということをなんら主張していない。この文章が現在について意味するのは、 「彼女の名前はLindaであるとも、Lindaでないともわからない」ということだけである。

 

現在完了形は過去の出来事を一つの時点に閉じ込めることから解放して、現在に関与させることである。そのために、現在完了形では、「過去の出来事をひとつの特定の時点に限定してはならない」という制約が設定されている。

 

 × I have left NY yesterday. 

 

この制約の適用は具体的にはどこまで適用されるのだろう?

 

I have left the office at five. 

 

ちょっとドッキリする例文だが、この文は、

 

私は 5 時に退社したことがある。

 

という意味であり「5時」は複数存在することが可能で、過去の時間を一つに特定しているわけではない。次の例も同じように解釈すればよい。

 

He has worked on Sunday. 

 

また、次の例も過去の時間を一つに特定したわけではない。 

 

I have gone back to visit two months ago, last weekend, and just yesterday. 

 

次の例は漠然とした時間の指定 (long ago) のため過去の時間を特定するまでには至っていないと見なされているからだろう。 こういう議論というのは、「個人情報保護法」でどこまでの個人情報の提供範囲なら個人の特定化が困難と見做されるかという現実問題と似たような話である。

 

I've given up that idea long ago.

 

次の例文も、現在が ”at this moment" として明示されていてギョッとする。

 

At this moment, my dog has delivered 5 puppies. 

 

この場合は、” at this moment” が前置され、この句が文全体を修飾していることにより、発話のタイミングを示しているだけで、”My dog has delivered 5 puppies." のタイミングを特定しているわけではない。

 

以上より過去の出来事が複数の時点でおきたり、その極限として継続しておきている場合は許されるということが分かった。

 

※ 参考: 岩垣守彦さんだったと思うが、アメリカやイギリスの子供たちは時制を覚えるのに時の副詞をつけて覚えると語り、以下のような例文をあげていたことを思い出した。

 I do it everyday, I did it yesterday, I have done it many times.

//

 

逆に制約に当てはまるのは、現在からみてかなり時間がたった遠くの過去の出来事がある程度の時間幅でおきている場合で、しばしばその時間幅は点とみなされてしまう。また、現在完了形の文に、出来事の時間を点と見なしてしまう at や when の使用は制約される場合がほとんどなのでこのことにも注意が必要だ。

 

次に現在完了形で過去の出来事と現在の関係を考察すると次の二つの場合があることが分かる。

 

完了: 現在において、過去に始まった出来事はすでに終了している。

継続: 現在において、過去に始まった出来事は終了しておらず続いている。 

 

一番単純な BE 動詞で、

 

「花子さんは特定されない過去のある時点に学生であった」

 

とする。これを現在完了形で表現すると、 

 

Hanako has been a student. 

 

となる。この文は、上記の「完了」になるのだろうか、「継続」になるのだろうか?

 

もし「継続」だとすると、「花子は過去のあるときに学生であり、いまでも学生である」ということになる。つまり現在を含む時間で一定・不変のことであれば、わざわざ現在完了形でいうというのは余程の変人であり、素直に

 

Hanako is a student. 

 

と現在形でいえばいいことになる (仮に現在が学生であるという事実があったしても現在完了を使用する限り話者はその過去の部分だけを意識しているのである)。つまり教訓としては、以下のようになる。

 

より簡潔な現在形を使えばことたりるとき、わざわざ現在完了形を使うことは言語の経済原理に背く。 

 

以上より、 

 

Hanako has been a student. 

 

は「完了」である。つまり、「花子は過去のあるときに学生だった」ということである。

 

 次の例文をみる。 

 

Hanako has been a student for three years. 

 

"for three years" が追加されたことにより「完了」「継続」双方の解釈が可能になっていることに気付く。「継続」は「3年前から今まで」とすればよく、特定の時間幅が新たな情報として加わっているためこの文を現在形に置き換えることはできなくなった。 

 

完了:彼女は過去のある3年間は学生だったが、今はそうではない。

継続:彼女は過去3年間学生で、今もそうだ。

 

両方の解釈のどちらであるかを決めるには文脈の検討が必要である。ただし、通常は「継続」として解釈されることが多い。もし、「完了」の解釈を完全に排除して、「継続」として内容を伝えたいのであれば、

 

 Hanako has been a student these three years.

 

とかいえば、現在を含む3年間であることが明確に示される。逆に「継続」の解釈を完全に排除して、「完了」として内容を伝えたいのであれば、単純に 

 

Hanako was a student for three years. 

 

ということが考えられるが、このときは過去のどの時間かを特定できる文脈が必要になる(過去形だから)。

 

もう一つ例を挙げる。

 

She has been dead. 

 

という文は異様に響く。というのは、今までの説明から

 

彼女は死んでいたが今は生きている。

 

という「完了」が解釈されるからだ。このような状況は日常ではありえず、映画や小説としては面白い表現となるかもしれない。また、 

 

She has been dead for three years. 

 

という文の場合は、普通は「亡くなって3年になる」という「継続」として解釈されるだろう。この場合、日常的な常識から「継続」の用法であることが自然に解釈されるのだ。

 

同じように、 

 

The door has been open. 

 

は、ドアが今は閉まっている「完了」のときにしか通常使わない表現である。 

 

今までの例は、BE 動詞を使用した。一般動詞の場合は、その動詞の意味がもつ性質から「継続」「完了」のいずれであるかを解釈する必要がある。たとえば、以下のような例文をみてみる。 

 

The dog has bitten his master. 

 

この場合、「噛む」という出来事は過去のある時点からずっと続いているということは認めにくい。したがって、「完了」の解釈になる。 

 

He has passed his driving test.

 

 pass のもともとの意味が「越える」であることを考慮すれば、これは「完了」の用法 である。注意しないといけないのは、あたり前だが「合格した」という出来事が完了したとしても、「合格」という結果事実はその後もずっと残る。その自明すぎる「結果事実」を「継続用法」として考慮してはいけない。

 

もともとの動詞が継続的な動作を意味している live の場合はどうか?

 

She has lived here. 

 

この場合、「彼女が現在もここに住んでいる」と解釈するのであれば、 

 

She lives here. 

 

としても意味的に何もかわらない。したがって、「完了」の意味をもつ。

 

以上の例が示すように、期間を示す句がないときの基本的な解釈は「完了」にもとづいているといえるだろう。

 

それでは、期間を示す句を与えないで「継続」を表すには、どうすればよいか?現在完了形ではなく、現在完了進行形を使うことが必要になるだろう。進行形は、

1) ある出来事が一定時間内において変化している

2) そのまま継続している

3) 間欠的に繰り返されている

のいずれかをあらわす。したがって曖昧さを許さず、現在完了進行形は「継続」として解釈される。 

 

He has been eating cake.

(彼はケーキを食べ続けている) 

 

こんどは、現在完了形に副詞がつかわれている場合をみてみる。 

 

She has recently arrived. 

 

上の文は、「彼女は最近着いて今もここにいる」という「継続」の意味で普通は解釈される。なぜなら過去の出来事と現在の時間差が短いので、現在、どこか別の場所に行ったとは見做されにくいからだ。この場合、過去と現在はほぼ重なりあっていると解釈できる。なお、このことは副詞がなくても、出来事が最近起きたということが文脈から分かれば成立する。現在を瞬間として捉える ”just now" は現在完了においては使いにくいことも以上から了解されるだろう。 

 

次に、現在完了形では、ある過去の出来事が、それが過去に起きたという当然の結果事実を超えて文の主語の現在に具体的な影響として所有されている必要がある。この制約は、「継続」用法であるならば、過去の出来事が現在においてもまだ引き続いていることから自然に満たされる。ところが、「完了」用法では、過去の出来事の現在への具体的な影響がなにかを想定することが問題になる。たとえば

 

I have had lunch. 

 

という文は「完了」の意味だが、そもそも現在完了形が成立するためには、過去の「昼食を食べた」ことの具体的影響が現在の主語に残っていないといけない。たとえば、「現在の私はお腹いっぱい」とすると、過去に昼食をとった影響が主語にいまなお残っていると考えられる。このような具体的影響が想定できるとき、はじめて過去の出来事は現在完了形として表現できる。たとえば、「私は現在お腹が減っている」というのであれば、過去の昼食の影響はすでに現在の「私」にたいしてなくなっていると考えられる。したがって、

 

I had lunch. 

 

と、過去形でいうしかない。繰り返しになるが、たんに「過去に昼食をとった」という自明の事実ではない具体的な影響が主語に想定できるときはじめて現在完了形の使用が正当化される。実際的には、現在完了形の「完了」表現は、過去の出来事から想定される影響と矛盾する表現をしてはいけないということである。すでに

 

Hanako has been a student.

 

という例は「完了」であることは説明したが、「現在の花子は学生でない」という事実だけから、学生だった花子の過去が現在の花子に影響を与えていないと考えることはできない。たとえば花子の現在の職は、「花子が学生だった」という過去の事実が影響しているかもしれない。 

最後に、現在完了形の簡単な例文をいくつかあげておくことにする。

 

例文1. 若いときに、中国に行ったことがある。
※ 「若いときに」ということで過去を特定した。この文章は現在完了形は使用できない。

When I was young, I went to China.

 

 例文2. 脚を折ったが、すっかり治った。
※ 現在完了形が使えるかどうかは微妙である。もし、その傷跡などの影響が残っていれば使える。逆に、跡形もなく直ったという意味だとすれば、骨折の影響は残っていないと考えられるので過去形で表現するしかない。ここでは、後者をとる。

 I broke my leg, but it healed up. 

 

例文3. 脚を折ったので、休日にはでかけられない。


※「休日にはでかけられない」は、脚を折ったという事実の影響と考えられる。したがって現在完了が使用できる。 

I can't go out on holiday because I have broken my leg. 

 

例文4. 何週間も映画を見なかったので、この週末はみたい。
※ 継続用法の現在完了形である。

I haven't seen a film for weeks. I want to see one this weekend. 

 

例文5. この赤ちゃんはまだおしめをしている。まだトイレのしつけがされていない。


※ 「しつけがされていなかったこと」は、おしめを現在もしていることに影響を与えている。したがって現在完了が使用可能。 

This baby still wears diapers. It has not been toilet-trained yet. 

 

例文6. パソコンが最近ひろくいきわたるようになりました。
※ 直近の過去に普及がはじまり、それが今もその状態であるという「継続」用法。 

Personal computers have become popular recently.

 

 例文7. 今年はたくさん友達ができた。
※ この文章から、いまは新しい友達はできなくなったという想定はしにくい。「継続」用法。 

I have made new friends this year.

 

 例文8. 彼は家にさっき帰ったが、また出かけました。
 ※ 直近の過去に帰ってきたのにまた出かけたのだから現在完了にはならない。一方「出かけ」て今もいないのだから現在完了の「継続用法」になる。 

He came home just now, but has gone out again. 

 

例文9. あなたは今日が私の誕生日であることを忘れている。
※ 継続用法である。

You have forgotten that today is my birthday.