生成変化

志村正雄による邦訳『ジャズ・イズ』の作者としても知られるナット・ヘントフが昨年、2017年1月7日、マンハッタンにある自宅のアパートで91歳で亡くなったというニュースが流れた。息子さんの Twitter によれば、彼はビリー・ホリディを聴きながら息をひきとったという。

 

彼は、すでに紹介した "Fine and Mellow" のパフォーマンスが含まれている 1957年12月8日の東部時間午後5時にCBS テレビから放映されたジャズ・ライブ番組 "The Sound of Jazz" の Executive Producer の一人でもあった。

 

 

20世紀も押し詰まった2000年の米国公共ラジオ放送 (NPR: National Public Radio) のインタビューで、ヘントフはこのライブ放送の想い出を語っている。


'Fine And Mellow' : NPR


このインタビューを聞いて納得したのだが(実は先ほどの『ジャズ・イズ』にも同じようなことが書かれている)、このビデオを見て泣いたのは僕だけではないということである。体調が悪かったという Lester YoungBen Webster の最初のソロを引き取るように立ち上がってテナーを吹き始めたとき、スタジオのコントロール・ルームにいたヘントフを含むスタッフ全員はみな涙していたと語っている。ドゥルーズ=ガタリは蘭の雀蜂への生成変化があり、雀蜂の蘭への生成変化があると書いたが、ここには人間のサックスへの生成変化があり、サックスの人間への生成変化がある。

 

ビクトル・エリセ監督は、『ミツバチのささやき』(1973 日本公開-1985, El espíritu de la colmena) でジェームズ・ホエール監督の『フランケンシュタイン』(1931, Frankenstein)を街にやってきた移動映画で見ているあのアナ・トレントの忘れがたい表情に関してこう語っている。

 

おそらくあの表情を捉えたときです。監督として最も本質的で重要な瞬間でした。撮影はドキュメンタリーの手法で行いました。手持ち(カメラ)で撮った唯一のショットです。クアドアド(カメラマン)がアナの正面の床にすわり私が彼の背中を支えました。そしてカメラに捉えたのです。映画を発見した瞬間を。アナが見ていた映画は実際に上映中でした。あの表情が表れたのは、少女が初めて怪物《フランケンシュタイン》と出会うシーンです。ですから二度とない瞬間でした。決して演出では出せないものです。これこそが、映画の逆説的で不思議な部分です。この作品について少し考えると、全体の方向性を牽引するのは、考え抜かれた映像様式です。しかし、私がこの映画の本質だと思う所は、瞬間そのものです。入念に練られたプランを超越してしまう瞬間です。それはある種、亀裂だと思います。記録映画の要素が劇映画の中で炸裂して、亀裂を入れる。このドキュメンタリー的側面が、今では失われています。私にとっては、はかり知れない損失です。重大な損失です。なぜなら、優れた劇映画を育んできたのは、映画が持つ又は持っていた事実を捉える能力ですから。しかし、たとえば劇映画の土台がなければ、ドキュメンタリーの意味も薄れるでしょう。でも確かにあの瞬間には、今でも心が震えます。私が撮った中で、最高の瞬間です。