おもしろい (完)

f:id:noriharu-katakura:20171224142133j:image

 

f:id:noriharu-katakura:20171224142612j:image

 

新聞を読まなくなって久しいが、ちょっと前に昼メシを食べに店に入ったら、テーブルに新聞が置いてあり、何とはなしに新井紀子さんが書いたものが目に留まったので読んでしまった。その内容は既にどこかで読んだものと大差なかった。

 

その真偽は僕にはよく分からないが、新井さんは人工知能が苦手な能力は読解力であるみたいなことを前から言っている。問題の解答結果から、AI よりも成績の悪い子=中高生がいて、そもそも設問の意味が理解できていないのではと思って、読解力のテストをしたら中高生の半数近くが問題の意味を正しく理解できていなかったそうである。読解ができない子は、設問の意味を理解することなしに記号 (註: ここの文脈はソシュールの言う「記号」ではなく、符牒、コードぐらいの意味で理解すればよい) 処理でしか問題を解けない。つまり、キーワードになりそうな単語だけを見つけて、全体の意味や構造を考えずにパターン的に問題を解くということしかできないので間違いを犯すのであり、その間違い方は、AI と傾向が似ているそうである。

 

グローバル化とインターネットの普及にともなって、国際的な情報処理言語となってしまった英語の習得にしても、TOEIC のくだらない読解問題などでは、キーワードだけを検索すればある程度解答できてしまう、リンガ・フランカとしての情報処理的なというか、事務処理的なというか、パターン処理的なというか、そういったスキルばかりが求められる。過去の帝国主義国家が植民地として支配した民衆に自国の言語をとりあえず「聞けて」「話せる」ことを強要し、支配者にとっては脅威である言語の根本的な構造的理解や深い読解などは決して要求しなかったのと変わらない状況だと思う。それが証拠にこれだけ英語人口がいるのに、いったいどれだけの人が、シェークスピアトマス・ピンチョンを読んだりできる読解力を有していると言うのか。

 

スマートフォンなどで飛び交う短い、符牒だらけの文章を眺めるのは、ほとんど瞬間的な動物的ともいえる反応であって、長い文章をじっくり読む能力は身につかない。ただ他の人と繋がっていて安心感を得たいというのが目的だし、そこになにが書かれているかは問題にならないほど、均一化、画一化されたネット・コンテンツの大量流出はいちいち読む気をおこさせず、ますます単なる記号の消費行為しか促さないのである。

 

しかし、そういった読解力不足というのは、中高生だけでないし、いまに始まったことではないと思う。蓮實重彦は、著書『赤の誘惑』で、『可能世界・人工知能・物語理論』の著者でコンピュータ・プログラマーでもあるマリー=ロール・ライアンがその本の中で引用している、フランス語の原文でほんの数ページに過ぎないシャルル・ペローの『赤頭巾』というテクストすらまともに読むことを怠っていると痛烈に罵倒して、だから自分の理論に溺れてテクストを自分の都合のいいようにしか利用できない奴は厚顔無恥で信用できないんだと憤っている。

 

このことから言えそうなのは、読んだり、見たりする能力というのは、だれにでも同等には学習されてはおらず、蓮實さんのような驚かされる稀有な能力の持ち主から、マリー=ロール・ライアンのようにかなり知的レベルが高いとされる人から試験問題の読解ができない中高生まで、予想以上に幅広くその能力が分布しているのではないかということである。

 

また読解に関して言いたいのは、キーワードのパターン検索のような「主題輪」的読みと、狭義の読解力で想定されているような「説話論」的というか統合論的読みは、すでに何度も述べているように「両方」を同時に連携させて始めて意味があるということである。

 

 

参考文献:

 

Charles Perrault

Le petit chaperon rouge
赤ずきん

Il était une fois une petite fille de village, la plus jolie qu'on eût su voir : sa mère en était folle, et sa mère-grand plus folle encore. Cette bonne femme lui fit faire un petit chaperon rouge qui lui seyait si bien, que partout on l'appelait le Petit Chaperon rouge.


むかしむかし、村に今までだれも見たことがないかわいらしい小さな女の子がいました。おかあさんはその子のことをとてもかわいがり、おばあさんはそれに輪をかけてかわいがっていました。人のよいおばあさんは、彼女に小さな赤いずきんをこしらえてあげました。それはとてもよく彼女に似合っていたので、彼女はどこでも「赤ずきんちゃん」と呼ばれました。


Un jour, sa mère, ayant cuit et fait des galettes, lui dit :


' Va voir comment se porte ta mère-grand, car on m'a dit qu'elle était malade. Porte-lui une galette et ce petit pot de beurre.'


ある日、おかあさんは焼き菓子を焼きあげると、彼女にいいました。

「おばあさんがご病気だそうなので、どんなご様子か見に行っておくれ。焼き菓子とバターの入った小壺を持ってお行きなさい」


Le Petit Chaperon rouge partit aussitôt pour aller chez sa mère-grand, qui demeurait dans un autre village. En passant dans un bois, elle rencontra compère le Loup, qui eut bien envie de la manger ; mais il n'osa, à cause de quelques bûcherons qui étaient dans la forêt. Il lui demanda où elle allait.


赤ずきんちゃんはすぐに別の村に住んでいたおばあさんの家に出かけました。森の中を通っていると、狼の大将に出会いました。狼は彼女を食べたくてしょうがなかったのですが、森には木樵たちがいたのでかないませんでした。狼は彼女にどこに行くのかと尋ねました。

La pauvre enfant, qui ne savait pas qu'il était dangereux de s'arrêter à écouter un loup, lui dit :

この子は、可哀想に、足を止めて狼の話を聞くのが危険だと知らず、こう答えました。

' Je vais voir ma mère-grand, et lui porter une galette, avec un petit pot de beurre, que ma mère lui envoie.


「おばあちゃんのお見舞いにいくの、おかあさんのお使いで、焼き菓子とバターのちっちゃな壺を届けるのよ」

- Demeure-t-elle bien loin ? lui dit le Loup


「おばあさんは遠くにお住まいかい」狼は尋ねました。

- Oh oui, dit le Petit Chaperon rouge ; c'est par-delà le moulin que vous voyez tout là-bas, à la première maison du village.


「ええ、そうなの。向こうに見える粉ひき小屋を越えた、村で最初の家よ」赤ずきんちゃんはいいました。

- Eh bien ! dit le Loup, je veux l'aller voir aussi, je m'en vais par ce chemin-ci, et toi par ce chemin-là, et nous verrons à qui plus tôt y sera.'


「そうなの、じゃ、ぼくもお見舞いに行こう。ぼくはこっちの道を行くから、君はあっちの道をお行き。そしたら、どっちが早くそこに着くかわかるよ」狼はいいました。

Le loup se mit à courir de toute sa force par le chemin qui était le plus court, et la petite fille s'en alla par le chemin le plus long, s'amusant à cueillir des noisettes, à courir après les papillons, et à faire des bouquets des petites fleurs qu'elle rencontrait.


狼は一番近道を全速で走って行きました。小さな女の子は、一番遠まわりの道を楽しみながら、ハシバミの実を集めたり、蝶々の後を追いかけたり、彼女が出あった小さな花でブーケをこしらえたりして往きました。

Le loup ne fut pas longtemps à arriver à la maison de la mère-grand ; il heurte : toc, toc.

狼がおばあさんの家に着くのは長くかかりませんでした。扉を叩きます。トン、トン。

' Qui est là ?


「どなたかしら?」

- C'est votre fille, le Petit Chaperon rouge, dit le Loup en contrefaisant sa voix, qui vous apporte une galette et un petit pot de beurre, que ma mère vous envoie.'


「あなたの孫娘の赤ずきんよ」狼は作り声でいいました。「おかあさんがおばあさんにと寄こした焼き菓子とバターのちっちゃな壺を持ってきたのよ」

La bonne mère-grand, qui était dans son lit, à cause qu'elle se trouvait un peu mal, lui cria :


人のよいおばあさんは、少し加減が悪かったのでベッドに臥せていましたが、声を上げていいました。

' Tire la chevillette, la bobinette cherra.'


「差し釘を引いてごらん。閂(かんぬき)が落ちるから」

Le Loup tira la chevillette, et la porte s'ouvrit. Il se jeta sur la bonne femme, et la dévora en moins de rien, car il y avait plus de trois jours qu'il n'avait pas manger.


狼が差し釘を引くと扉が開きました。狼は人のよいおばあさんに飛びかかり、あっというまに彼女をたいらげてしまいました。というのも、もう三日以上何も食べていなかったものですから。

Ensuite il ferma la porte, et s'alla coucher dans le lit de la mère-grand, en attendant le Petit Chaperon rouge, qui quelques temps après, vint heurter à la porte : toc, toc.

それから狼は扉を締めて、おばあさんのベッドに寝て、赤ずきんちゃんを待ちました。しばらくすると、彼女がやってきて扉を叩きます。トン、トン。

' Qui est là ?'


「どなたかしら?」


Le Petit Chaperon rouge, qui entendit la grosse voix du Loup, eut peur d'abord, mais, croyant que sa mère-grand était enrhumée, répondit :


赤ずきんちゃんは、狼の大きな声を聞いてはじめは怖かったけれども、おばあさんは風邪を引いているのだと思って答えました。


' C'est votre fille, le Petit Chaperon rouge, qui vous apporte une galette et un petit pot de beurre, que ma mère vous envoie.'


「あなたの孫娘の赤ずきんよ。おかあさんがおばあさんにと寄こした焼き菓子とバターのちっちゃな壺を持ってきたのよ」


Le Loup lui cria en adoucissant un peu sa voix :


狼は少し声を柔らげながら彼女に叫びました。


' Tire la chevillette, la bobinette cherra.'


「差し釘を引いてごらん。閂(かんぬき)が落ちるから」


Le Petit Chaperon rouge tira la chevillette, et la porte s'ouvrit. Le Loup, la voyant entrer, lui dit en se cachant dans le lit, sous la couverture :


赤ずきんちゃんが差し釘を引くと扉が開きました。狼は彼女が入って来るのを見ると、ベッドの中で毛布の下に隠れたまま、彼女にいいました。

' Mets la galette et le petit pot de beurre sur la huche, et viens te coucher avec moi.'


「焼き菓子とバターの小壺を収納箱の上に置いて、こっちへきてわたしと寝ておくれ」

Le Petit Chaperon rouge se déshabille, et va se mettre dans le lit, où elle fut bien étonné de voir comment sa mère-grand était faite en son déshabillé. Elle lui dit :


赤ずきんちゃんは服を脱いでベッドに入ろうとすると、寝間着のおばあさんの様子を見てとてもびっくりしていいました。


' Ma mère-grand, que vous avez de grands bras !

「おばあさん、なんて大きな腕なの!」

- C'est pour mieux t'embrasser, ma fille !

「それはもっとよくおまえを強く抱きしめるためさ!」

- Ma mère-grand, que vous avez de grandes jambes !

「おばあさん、なんて大きな足なの!」

- C'est pour mieux courir, mon enfant !

「それは、もっとよく走るためさ!」

- Ma mère-grand, que vous avez de grandes oreilles !

「おばあさん、なんて大きな耳なの!」

- C'est pour mieux écouter, mon enfant !

「それは、もっとよく聞くためさ!」

- Ma mère-grand, que vous avez de grands yeux !

「おばあさん、なんて大きな目なの!」

- C'est pour mieux te voir, mon enfant !

「それは、もっとよくおまえを見るためさ!」


- Ma mère-grand, que vous avez de grandes dents !

「おばあさん、なんて大きな歯なの!」

- C'est pour te manger !'

「それは、おまえを食べるためさ!」

Et, en disant ces mots, le méchant Loup se jeta sur le Petit Chaperon rouge, et le mangea.

そういうやいなや、この悪い狼は赤ずきんちゃんに飛びかかり、彼女を食べてしまいました。

 

※ 写真はギュスターヴ・ドレ