恋人よ我に帰れ

こうやって同じ曲を並べてみると、20世紀の音楽は紛れもなくアレンジと演奏家の時代であったんだと思う。同じ曲がカラオケ的な同質的再現ではなく、その都度小さな差異、工夫、発明を含みながら反復され世界中に広がっていく。その差異の伝播を可能にしているのが、レコードという複製技術である。それが先人を参照しながらも、そこに何か新しい解釈を加えていくことを可能にしたのである。これらのシミュラークルの間の差異はメッセージのレベルでなく明らかにその表現の違いである。ビートルズの曲は、世界中ほぼ同時にヒットしたので、複数の演奏家が介在する余地などなかった。プレスリーのあの発声は簡単にはコピーを許さないが、ビートルズのコピー(同質的反復)はある程度練習すれば比較的簡単であったという側面もあったと思う。メッセージ中心で表現的にはまったく同質な音楽が世界あっという間に覆ってしまう60年代以降の音楽とその前の時代のものには深い深い溝があると思う。

 

Paul Whiteman (Jack Fulton, vocal,1929)

 

Annette Hanshaw (1929)

 

Rudy Valee (1929)

 

Jack Hylton (1929)

 

Grace Moore (1930)

グレース・ムーアは、ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場のソプラノ歌手。トーキー初期にハリウッドに招かれ『忘れじの面影』(1930)とこの曲が歌われた『ニュー・ムーン』(1930)に出演した。しかし、この二作は興行的に失敗。ミュージカル映画の人気がこの後、一時的に下火になったこともあって、ムーアは、映画の世界からは一時的に離れる。しかし、再起をかけた 1934年の『恋の一夜』(One Night of Love) はヒット作となる。ムーアはブランクの間、歌っているときの顏が大袈裟ではなく自然な表情になるように鏡を見ながら訓練していたという。もちろん、高い技術をもった当時のハリウッドの撮影陣が彼女のクロースアップをより美しくみせ、歌が上手いだけでない美貌でもあるオペラ歌手というイメージ作りに貢献したことはいうまでもない。

 

川畑文子(1933)

 

ディック・ミネ (1935)

 

Mildred Bailey (1938)

 

Artie Shaw (1939)

 

Jeanette MacDonald (1940)

※ 1930年の『ニュー・ムーン』のリメイクで、ジャネット・マクドナルドが歌った。

 

Frank Sinatra (1943)

 

Billie Holiday (1944)

 

Patti Page (1957?)

 

Aretha Franklin (1962)

 

Barbara Streisand (1962)

 

Barbara Streisand (1965)

 

ザ・ピーナッツ (1966)