英語の勘所 (1)

日本語で「太郎は髪を切った」と言うとき、実際に髪を切ったのが散髪屋さんだったとしたら、英語では

 

× Taro cut his hair.

 

とは言いにくい。これだと「太郎が自分で自分の髪を切った」ということになる。散髪屋のことを直接、表に出さないで「髪を切った」というには、

 

Taro had his hair cut.

Taro got his hair cut.

Taro got his hair done.

 

などという必要があるだろう。英語の主語は、動詞の結果の論理的原因を示すものだから、「意志」などは関係がなく「無生物主語」を簡単にとれる。

 

This medicine will make you feel better.

この薬はあなたをもっと楽にしてくれる、

 

What makes you think so?

なにが、あなたにそう考えさせるのか?

 

What took you to Alaska?

なにが、あなたをアラスカに連れていってくれたのですか?

 

That explains it.

そのことは、それを説明してくれる。

 

Cancer kills thousands of people every year.

癌は毎年多くの人の命を奪う。

 

This key opens the door.

この鍵はドアを開けてくれる。

 

これらの例文を日本語に実際に訳してみると、まるで無生物に「意志」があるかのように「~してくれる」といった風に訳さないと、なかなか自然な日本語にならない。それは日本語が「意志」を結果にいたる「原因」に含めてしまう傾向があるからだと思う。また、日本語では、次の例のような表現は明らかな語義矛盾を起こさない。

 

燃やしたけど、燃えなかった。


問題が解けるように手伝ったが、彼は解けなかった。


彼を説得したけど、彼は行かなかった。

 

日本語だと、主語に「実現の意志」さえあれば、実際の「結果」が伴なっていなくても構わないらしい。こういう言い方は、英語では通常できない。

 

× I burned it, but it didn't burn.

 

新興宗教」やそれに近い「啓発本」に毒された人は除き、英語では「意志」と結果に至る「論理的原因」は別の概念でありみだりな混同を避ける必要がある。

 

日本語でも英語でも

 

ジョンはテーブルを綺麗に拭いた。

 

John wiped the table clean.

 

といえる。しかし、日本語の場合に意味するのは、「ジョンは綺麗にしようという意志をもってテーブルを拭いた」ということに対し、英語の場合には「ジョンがテーブルを拭いた結果、テーブルが綺麗になった」という原因と結果という意味にすぎない。この違いが顕著になるのは次のような例である。

 

I ate myself full.

 

I ate myself sick.

 

上の両方の文は問題ない。「食べた結果、お腹一杯になった」「食べた結果、病気になった」という因果関係は成立しうるからだ。ところが、日本語の場合は、

 

私はお腹いっぱいに食べた。

 

は問題ないが、

 

× 私は気持ち悪く食べた。

 

みたいな表現は普通使わない。「私は気持ち悪くなる意志をもって食べた」というのは想定しにくいからである。

 

太郎は花子の髪を可愛らしく切った。

 

という言い方は、「太郎が花子の髪を可愛いらしくしようという意志をもって切った」ということなので、太郎本人が「可愛いらしい」とさえ思いさえすれば成立する。これを英語で、

 

× Taro cut Hanako's hair pretty.

 

とは言えない。なぜなら「花子の髪を切った結果、髪が可愛くなった」というのは、客観的な因果関係とは言えないからだ。

 

次に、よくひきあいに出される例文をとりあげてみる。

 

I shot at the bird.


I shot the bird.

 

最初の文では shot と bird の間に前置詞 at が挿入されているが、この場合の 前置詞 at を「方向を一致させる」という意味に捉えるとすると、「私は鳥がいる方向に銃の向きを一致させて、銃を撃った」というshoot に包含されている意味の内、「向きを一致させる」という局面が at の存在によって強調される。前置詞 at がない二番目の例文では、「弾がその鳥に当たった」というshoot の動作による「結果」が成立したことを強調する。したがって、以下の最初の例文は shoot の「狙う」動作が強調されているので成立するが、2番目の文は成立しない。

 

I shot at the bird, but missed it.


× I shot the bird, but missed it.

 

同じような例として、

 

× He gradually escaped the police.

 

He gradually escaped from the police.

 

John drank the glass of beer. (全部飲んだ)


John drank from the glass of beer. (一部飲んだ)

 

次の例の二番目の文は、推測に失敗しているのだから、結果表現を使うのはおかしい。

 

You have guessed her age right.


You have guessed at her age wrongly.

 

次の例はやや難しいがよく考えれば上と同じことである。

 

He wants a fountain pen. 


He wants for nothing. 

 

直接的な対象操作ではなく、間接的な操作や動作を表す場合、前置詞を使用した表現が成されることがある。以下の例を見てみる。

 

John rode a camel.


John rode on a camel.

 

上の例の一番目の文だとラクダを操って乗りこなしている感じがする。二番目の文もラクダに乗っているのだが、ラクダは操られておらず自然の成り行きで進んでいるという感じがする。

 

rule a large empire (直接統治)


rule over a large empire (間接的な統治権の行使)

 

She married money.


She married into a wealthy family. (「家」に嫁ぐのは間接的な表現)

 

次の例文は上の表現だとドアが壊れそうなほど叩く感じがする。

 

knock the door

ドアをドンドンたたく


knock on/at the door

ドアをノックする

 

主語や目的語が抽象的なモノだと結果を具体的に想定しにくいのだろうか。前置詞を使った表現が多用される。

 

He seized the rope. (具体的対象)

 

He seized upon her mistake. 

 

reach shore


The power of Rome reached to the ends of the known world. (抽象的主語)

 

 英語の結果構文を少し詳しく見てみる。結果構文はいくつかの場合に分けて順番に考察するとわかりやすい。

 

まず、動詞にもともと潜在的な意味として含まれている結果を明示的に表現する場合を考える。

 

Mary frozen  it solid.

 

上記の例は、freeze「氷らせる」という動詞は、もともと液体を「固体」にするという結果を含んでおり、その結果の状態を形容詞で明示的に表現している。

 

The butter melted to a liquid.


液状になるというのは、「溶ける」melt という動詞の結果を明示的に表現しているに過ぎない。この場合、結果状態を名詞で表現するために前置詞句が使用されている。次の二つの例も、同じように考えることができる。

 

My brother broke the base into pieces.

 

She polished the shoes to a brilliant shine.

 

次に、動詞の意味にもともと含まれているとは考えにくい結果を明示的に表現する場合を考える。結果は先ほどみたように「形容詞」を使う場合と「前置詞句」を使う場合があるので、それぞれ分けて考察する。


まず形容詞の場合、結果をあらわす形容詞としてとれるものは、明確な尺度が与えれた上で「極限的なもの」として表現されていなければならない。例で考えた方が早い。

 

He hammered the metal flat.

彼はその金属を叩いて平らにした。


He hammered the metal straight.

彼はその金属を叩いて真っ直ぐにした。

 

まず、hammer「たたく」という動詞の内容に伸びるとか、曲がりを直すような結果の意味は含まれていない。「平ら」「真っ直ぐ」というのは、曲面、曲線の極限的な状態である。以下の表現は結果を極限として表現していないので駄目である。

 

× He hammered the metal long.


× He hammered the metal wide.


× He hammered the metal thin.


× He hammered the metal beautiful.

 

このタイプの結果構文の他の例を以下にあげておく。

 

She wiped the table clean.

 

She wiped the table dry.

 

She combed her hair straight.

 

She combed her hair smooth.

 

She shook him awake.

 

He shot the man dead.

 

He kicked the door open.

 

He kicked the door shut.


目的語が「有限」の対象の場合、動作はその有限性においていつか完結するということから成立する結果構文がある。

 

I painted the wall red.

 

I painted the car a pale shade of yellow.

 

「笑う」とか「歌う」のような自ら動作を行う自動詞で結果表現をする場合には、目的語として「再帰代名詞」が必要である。なお、freeze のように、他動詞でも自動詞でも使える動詞の場合の自動詞とは、他動詞の場合の目的語が、自動詞表現で主語の位置に移動したものであるり、この場合、再帰代名詞は不要である。

 

Mary froze it solid.

 

It froze solid. ( 再帰代名詞不要)

 

再帰代名詞を取る場合の例文を挙げる。

She sang herself hoarse.

歌って声が嗄れた。

 

He danced himself tired.

踊って疲れた。

 

He danced himself feet sore.

踊って脚が痛くなった。

 

Tom ran himself sweaty.

 

They laughed themselves silly.


これらの例文の結果状態として使われている形容詞をみると、身体の正常な機能の「限界」を表現していることに気がつく。つまりこの場合、「正常」からの逸脱を極限としてそれを結果として形容詞で表現している。

 

次の例では、再帰代名詞が主語の身近なもの(持物、接触物)や具体的な体の部位として置き換えられたものである。

 

She cried her handkerchief wet.

 

The joggers ran the pavement thin.

 

Sylvester cried his eyes out.


再帰代名詞を別の名詞におきかえたとしても、逸脱表現で結果を現すことはそのままであることがわかる。たとえば、ハンカチが濡れることはハンカチの機能の逸脱である。

 

形容詞として結果を表現する注意として、その形容詞はあくまで「結果の状態」を示すものであるということである。つまり、静態ではなく「動態」が残っていると考えられる過去分詞や現在分詞は使えない(ただし、形は過去分詞でも純粋な状態を示す形容詞の場合は使える)。

 

I pushed the door closed/shut/open/×opened.

 

The joggers ran themselves sweaty/× sweating.

 

今度は「前置詞句」の場合を見る。結論からいうと、この場合は結果へ至る前置詞が「経路」として表現され、その経路を通過した極限への到達、あるいは経路からの離脱として結果が表現される。

 

Frank sneezed the tissue off the table.

 

Elena coughed the foam off the cappuccino.

 

John laughed tomato soup up his nose.

 

I cried myself to sleep. (sleep は名詞)

 

上の最後から2番目の例文は名詞(nose)そのものが経路としてイメージでき、経路を表現する前置詞は省略されている。

 

下の例では、最初の文は許容されないが、次の文は許容される。to がないと前置詞が経路にならないのである。

 

× He blew his handkerchief on the floor.

 

○ He blew his handkerchief onto the floor.

 

動詞がなんらかの「完結する」という意味をもともと語彙的としてもっているならば、結果を形容詞により状態表現することが可能だが、そうでない場合には、 to による前置詞句 の必要がある。たとえば work という動詞は完結の意味をもたないので形容詞では結果表現できず、前置詞句として結果を現す必要がある。

 

× He worked himself dead.

 

○ He worked himself to death.


実際の文では、結果構文とそうでない構文の区別がつきにくい場合が多い。たとえば、以下の例の形容詞は、主語の補語として使われているにすぎず結果構文とは言えない。

 

Bill drove his car drunk.

 

She cleaned the bathtub barefoot.


また、次の例は、目的語の補語にすぎない。

 

Ken ate the shrimps uncooked.

 

John ate the meat raw tender.


結果構文では結果状態を一つしか記述できないので、上の例の二番目の文は結果構文でないことがすぐにわかる。さらに次の例は、形容詞を副詞代わりの様態として動詞を修飾しているもので、副詞と交換できる形容詞である。

 

He tied his shoelaces tight/tightly.

 

He tied his shoelaces loose/loosely.

 

Mary cut the meat thick/thickly.

 

He spread the butter thin/thinly.